社会主義的工業化(読み)しゃかいしゅぎてきこうぎょうか(その他表記)socialistic industrialization 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会主義的工業化」の意味・わかりやすい解説

社会主義的工業化
しゃかいしゅぎてきこうぎょうか
socialistic industrialization 英語
sozialistische Industrialisierung ドイツ語
социалистическая индустриализация/sotsialisticheskaya industrializatsiya ロシア語

十分な近代的大工業をもちえないままに社会主義に移行した国において、これを計画的に創出する過程。1928~37年の第一~第二次五か年計画を通じ旧ソ連で初めて実現され、第二次世界大戦後は50年代から60年代前半にかけて東欧諸国、中国その他で遂行された。もっとも、工業化完了の厳密な時期確定は困難であり、一般的には国民経済レベルにおけるいちおうの工業体系の完成をもってその目安としている。ソ連では1925~26年に革命後の復興過程が完了し、これを踏まえて25年12月の第14回党大会で経済建設の一般方針として工業化政策が提起されたが、これに先だちすでに24年には、23年の「鋏(はさみ)状価格差」恐慌論争の新たな展開として工業化論争が開始されている。

 これまでに実現された社会主義的工業化過程においては例外なく、(1)きわめて高率の工業化テンポ、(2)重工業の優先的発展、(3)アウタルキー主義、(4)農業集団化との結合、がその特徴となっている。その結果、社会主義的工業化はそれ以前の資本主義的工業化に比べはるかに短い期間に達成されたが、そのためには異常に高率の資本蓄積が必要とされたのであり、その犠牲も大きかった。

 社会主義的工業化のための蓄積源泉としては、資本主義諸国からの資本援助が期待できなかったこともあり、農業からの資源収奪がその主力をなした。異常な低価格のもとで強制的に割り当てられる農産物供出がその手段であり、農業集団化も、少なくともその当初は、農民(主として富農、中農)の抵抗を抑え、農産物に対する国家の支配権を確立するための体制づくりであった。また農業集団化は、工業が必要とする新規労働力と土地需要の充足にも大きく貢献した。農民ばかりでなく労働者階級もまた最大限蓄積の対象とされ、工業化過程の初期には実質賃金水準の低下もしくは停滞が一般的であった。最小限の食糧需要を除く消費財の価格引上げがそのてこであり、こうして調達された資金は取引税を通じて国家に集中された。消費財価格の引上げは住民の購買力を抑制し、重工業の優先的発展=軽工業の相対的立ち後れを可能とした。以上のような蓄積方式は、社会主義的原始蓄積の必然的結果であったといえる。

 巨大な犠牲を伴ったとはいえ、この工業化方式は、工業化を民族的自立の不可欠の前提と希求する多くの発展途上諸国の間から絶えず信奉者を生み出している。

[平泉公雄]

『A・ノーヴ著、石井規衛・奥田央・村上範明他訳『ソ連経済史』(1982・岩波書店)』『A・エクスタイン著、石川滋監訳『中国の経済革命』(1980・東京大学出版会)』『ソ連科学アカデミー世界社会主義体系経済研究所編、世界文庫編集部訳『世界社会主義体系 第一巻』(1968・世界文庫)』

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