資本のとらえ方には実物的なとらえ方と貨幣的なとらえ方とがあるが、資本蓄積もこれに対応して二つのとらえ方に大別される。実物的なとらえ方は、主として近代経済学が追究するところであり、一方、貨幣的なとらえ方は、マルクス経済学で重視されている。
[大塚勇一郎]
資本蓄積とは資本財ストックの増加のことで、資本形成ともいわれる。資本蓄積の経済分析は、重農学派にすでにその萌芽(ほうが)がみられるが、古典派経済学において初めて明確な形をとる。D・リカードは、資本蓄積の進行はより劣等な農地の耕作をもたらし、農産物価格の騰貴を通じて利潤率を低下させるとした。利潤率の低下は資本蓄積を減速させ、経済を定常状態へと導くことになる。R・F・ハロッドは、J・M・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)の長期化に努めた。ケインズ以前の経済学においては生産能力と有効需要の間に差異は認められず、生産能力の拡大はそのまま現実の産出量の増加に結び付くものと考えられていたが、ハロッドは、生産能力の完全利用をもたらす資本蓄積経路と現実の蓄積経路(そして労働の完全雇用をもたらす経路)を截然(せつぜん)と区別し、前者は特殊な条件においてのみ実現されることを明らかにした。こうした独立の経路を前提にしつつ資本蓄積の問題を分析しようとしたところにハロッドの意義があるといえる。1950年代になると、新古典派の理論が展開されるようになる。そこでは資本の完全利用と労働の完全雇用がともに満たされるような均衡経路の研究が主要なテーマとなる。
ケインズやハロッドは、資本蓄積をもたらす投資を資本主義経済の原動力ととらえ、成長・衰退・変動をもたらす動的な要素として位置づけた。J・ロビンソンやN・カルドア、パシネッティLuigi Lodovico Pasinetti(1930―2023)らの資本蓄積論も同様である。たとえばロビンソンは、経済諸量は資本蓄積率に規定され、それが高ければ高いほど資本利潤率は高いこと、そして資本蓄積率を規定するものは、ケインズのいうように、企業家のアニマル・スピリットであるとみる。これに対して新古典派では、投資の重要性は比較的小さく、完全雇用(利用)産出量をもたらす技術的関係と、それから派生する効率性や価格メカニズムの問題が重視されることになる。
なお、これらの理論においてかならずしも明らかでない資本蓄積と経済の再生産構造との関係は、一方においてK・マルクスによって、他方においてフォン・ノイマンやW・レオンチェフらによって分析が行われており、さらにこれらとは異質な内容をもって、パシネッティによって展開されている。
[大塚勇一郎]
資本によって増殖された剰余価値を追加資本として用いること、あるいはその剰余価値を資本にふたたび転化することを資本の蓄積という。したがって資本の蓄積は、一方で生産の繰り返しの連続的流れ、再生産を含み、他方ではその再生産の量的拡大として現れる。資本蓄積の動因は、価値増殖が自己目的たる資本の本質規定そのものにある。資本は競争に負けずに存立を維持するためには絶えず生産規模を拡大していかなければならないが、それは資本の累積的蓄積によってのみ可能なのである。こうして資本にとっては、蓄積のための蓄積、生産のための生産の拡大が至上命令となる。貨幣蓄蔵者においては個人的狂気として現れた絶対的致富衝動は、資本家においては彼が1個の動輪として組み込まれているところの社会的機構の作用となるのである。
生産の繰り返しの連続的流れのなかでは、資本蓄積の源泉は労働者のつくりだした剰余価値の一部となる。1回きりの生産過程では賃金は資本家のあらかじめ準備した貨幣(=可変資本)の前払いであるが、同一規模の生産の連続的繰り返しではその外観的性格は消えうせ、労働者がそれ以前の過去の生産過程ですでに生産し貨幣に実現した価値の一部でもってこの生産過程の賃金が支払われるようになり、これを永久に繰り返すのである。これは資本全体についても同じで、連続的流れの再生産では、資本は初め自ら労働して得たものでも、資本として投ぜられるなら、一定期間後には遅かれ早かれ対価なしに取得された価値、すなわち蓄積された剰余価値、他人の不払い労働の結晶となる。なぜなら、労働しない者は他人の労働を手に入れない限りその間自ら創造した価値を消費するにすぎないのであり、それ以外はなんらの価値も消費できないからである。
さらに再生産の量的拡大、拡大再生産は、剰余価値の一部を追加資本として投下することによって行われるが、この資本部分は初めから蓄積された剰余価値以外のなにものでもない。したがって資本は初めから他人の不払い労働の結晶、堆積(たいせき)であり、この本質が蓄積過程で前面に出てくるのである。そして資本の蓄積は累進的な規模での資本の再生産であり、過去の不払い労働の所有が今日の生きた不払い労働の取得を可能にし、ますます拡大する唯一の条件になる。したがって最初に投下された資本は、資本に再転化した剰余価値すなわち蓄積された資本に比較するとまったく消えてなくなりそうな量(数学的意味での無限小)になる。
このように蓄積は、資本をして永久に不払い労働の取得の手段として運動を続けさせ、労働者を賃労働として再生産し、労働者の搾取条件を永久化する。それは商品および剰余価値を生産・再生産し、拡大再生産するだけでなく、資本関係そのもの、一方における資本家と他方における賃労働者を再生産し、拡大再生産する。
こうして商品生産のもとでは自己労働に基づく所有が、資本主義生産のもとでは、資本家の側では資本による他人の不払い労働およびその生産物を取得する権利となり、労働者の側では自ら生産した自己の労働生産物を取得することの不可能性となる。かくて労働力売買の等価交換は仮象にすぎなくなる。
資本を維持するために絶えずそれを増大させなければ競争に打ち勝てない資本主義生産では、そのために累積的蓄積を行うが、それはまた個別資本間の競争と相互の反発を激化させる。資本の蓄積はこのように個別資本の競争を通じて資本の集積・集中を相互に促進して労働の社会的生産力を高めていくのである。
この労働生産力の増大は資本の有機的構成を高度化させる。そのもとでは労働に対する需要は、絶対的に増大するとはいえ、資本全体に比べて相対的に減少し、資本の大きさが増大するにつれてさらに加速的、累進的に減少する。そのうえ投下資本は資本蓄積と集中により加速的に増大するのに対し、それ以上に可変資本の相対的減少が速められるから、絶えず相対的過剰人口(=失業者)が形成され、累積していく。こうして資本蓄積から生み出される相対的過剰人口は、産業予備軍として資本の突然の膨張の際の労働需要に対処し、資本蓄積の槓杆(こうかん)として作用するとともに、就業労働者の労働条件、賃金を圧迫する。したがって相対的過剰人口の存在は、労働者の就業を圧迫し、生存条件をますます不安定にし、労働者の貧困化を必然化する。
このように資本の蓄積は、資本を増大し、労働生産力を高め、資本の支配圏を拡大するが、それと同時にその同じ原因が労働者を増大し、労働苦を広げ、資本への隷属をいっそう強化し、資本の有機的構成の高度化による相対的過剰人口を増大し、労働者の極貧層、受救貧民をも分厚く沈殿させる。したがって資本の蓄積は一方の極での富の蓄積と、他方の極での貧困、労働苦、奴隷状態、無知、粗暴、道徳的退廃の蓄積とを固く結び付けて進行する。これが資本主義的蓄積の敵対的性格であり、その絶対的、一般的法則である。
[海道勝稔]
『R・F・ハロッド著、高橋長太郎・鈴木諒一訳『動態経済学序説』(1953・有斐閣)』▽『富塚良三他編『資本論体系3 剰余価値・資本蓄積』(1985・有斐閣)』▽『K・マルクス著『資本論』第1巻第7篇(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』
資本は労働および土地と並んで生産要素に数えられ,それらが生産過程において協同することによって財貨・サービスが生み出される。労働および土地は本源的生産要素と呼ばれるが,資本がそれらと異なるのは,資本は生産物の一種であり,生産過程から生産されるということである。すなわち,資本は生産された生産要素あるいは生産された生産手段である。このように生産過程に用いられる資本は実物資本であって,貨幣の形態をした貨幣資本や金融資本ではない。実物資本は,機械設備,建物,構築物,原料や製品の在庫からなる。これらの資本は,年々生産される生産物の一部が投資として蓄積されたものである。資本蓄積または資本形成capital formationとは,資本が年々増加することをいい,この資本の増加分を投資という。
資本はストック概念であり,ある時点(期首あるいは期末)において測定される。それに対して投資はフロー概念であり,ある期間において測定される。期間としてふつう1年をとると,資本は1年間に生産のための使用あるいは単なる時間の経過によって価値の損耗をこうむる。一方,1年間に新たに生産された生産物の中から投資が行われ,これを粗投資と呼ぶ。粗投資の中から資本の価値損耗分を補塡(ほてん)すると,残りが資本の純増加分となる。粗投資から資本の損耗を差し引いたものが純投資と呼ばれる。
投資または資本形成は,実物資本の種類に応じて,設備投資,建設投資(企業の建物だけでなく,個人の住宅建設を含む),在庫投資からなる。これらは,民間によって行われるもの(民間資本形成),および政府によって行われるもの(政府資本形成)の双方を含む。設備投資と建設投資との合計を固定資本形成という。
資本形成が行われるためには,生み出された生産物がすべて消費されるのではなく,一部が貯蓄されていなくてはならない。すなわち,一方において,国民所得=消費+貯蓄であり,他方において,国民所得=消費+投資である。したがって貯蓄=投資という条件が成立する。生産物の一部がただちに消費されるのでなく貯蓄され,それに見合った形で生産物の一部が投資となって資本に追加され,次に生み出される生産物の量を大きくするのである。この意味で資本形成は迂回生産を意味し,それによって拡大再生産が行われることを意味する。もし粗投資が既存資本の減耗分に等しい規模で行われるにとどまるなら,資本は増大せず,経済は単純再生産の状態にある。純投資がプラスの場合にのみ,拡大再生産が進行する。逆に粗投資が資本減耗に及ばず,純投資がマイナスの場合には,資本は減少し,生産の規模は縮小するために,縮小再生産に陥る。
また技術進歩が経済に導入されるさい,新しい技術は資本の増加分の中に具体化している。したがって資本形成は単に生産要素の増大を意味するだけではなく,技術進歩に基づく生産性の上昇を意味するのである。
執筆者:塩野谷 祐一
利潤として取得された剰余価値の一部が追加的に投資されて拡大再生産が行われることを資本の蓄積という。どのような社会においても生産規模が拡大されるためには,自由に処分することのできる剰余生産物が,追加的な生産手段および追加的な労働力のための生活資料として,生産的に消費されなければならない。資本主義社会においては再生産が貨幣の投下と回収を通ずる資本価値の循環の中で行われ,それゆえ拡大再生産は,個々の資本におけるこうした剰余価値の資本への転化を通じて実現されるのである。
資本家が取得した剰余価値のすべてを生活資料の購入にあて個人的に消費してしまうならば,同一規模の単純再生産を繰り返すことになる。しかし剰余価値を追加的な生産手段と追加的な労働力の購入にあてるならば,それらを消費して生産規模を拡大することができる。一般的には,剰余価値は多かれ少なかれ一定の比率で消費元本と蓄積元本とに配分され,拡大再生産が行われる。資本は価値増殖の根拠を生産過程にもっており,そこで取得した剰余価値のできるだけ多くを繰り返し生産過程に投下して,蓄積を図ろうとするのである。また諸資本相互のはげしい競争に生き残るためにも,蓄積による企業規模の拡大が強制されるであろう。こうして資本主義社会では,拡大再生産がいわば〈蓄積のための蓄積〉という自己目的となって進行し,それ以前のいかなる社会よりも速い速度で経済成長を実現することができたのである。
しかしこの資本蓄積と拡大再生産はつねに順調に進行しているわけではなく,好況-恐慌-不況を一つの周期とする景気循環をともなって展開される。それゆえ景気循環こそ資本蓄積の現実的な過程ということになり,そのなかで互いに異なる二つの蓄積様式が継起的に交代して繰り返される。好況期のように価格が強含みで生産が順調に進む場合には,危険をおかしてまで生産方法を改善するよりも,むしろ既存の技術体系と固定設備のもとで急速な生産規模の拡大を図るであろう。こうして生産手段に対する労働力の構成比率が不変のまま蓄積が進行していけば,やがては労働力の不足が避けられず,賃金の上昇と利潤率の低下を招くことになる。こうした資本の過剰蓄積に対する一時的な反動としての恐慌の結果,再生産の縮小停滞にともなう滞貨圧力によって商品価格は低い水準に引き下げられるため,資本は旧設備を廃棄し新しい技術や設備を導入してコストの軽減を図ろうとする。この不況期にみられるいわゆる合理化投資は,生産手段に対する労働力の比率を相対的に低下させるため,〈資本構成を高度化する蓄積〉と呼ばれる。その結果,同一規模の再生産がより少数の労働力で賄われうることになるから,次の好況期には以前の限界をこえて生産規模が拡大できるようになる。それゆえ景気循環は,蓄積にとって不可欠な労働力を資本がみずから確保する機構ということになり,K.マルクスはこれを〈相対的過剰人口(〈産業予備軍〉の項参照)の形成〉と呼んだ。
執筆者:小池田 冨男
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…この語は,ときには経済発展と同義に用いられることもあるが,J.シュンペーターの《経済発展の理論》に示されているように,普通には経済発展という用語は経済構造の変革を含む経済諸量の断続的変化が問題とされるのに対して,経済成長という場合には経済諸量の連続的変化や調和的変化が問題とされることが多い。
[経済成長の規定要因]
資本蓄積,技術進歩,人口増加の三つを挙げることができる。第1の資本蓄積は国民生産力の物質的基礎を拡充し,かつ新しい生産技術を具体化するための物的手段を形成し,第2の技術進歩はそれによって生産要素の効率的利用の可能性が拡大され,そして第3の人口増加はそれによって本源的生産要素である労働力の増大が可能となるのである。…
…K.マルクスの主著で,社会主義に〈科学的〉な基礎を与えたとされる著作。原題を直訳すれば《資本――経済学批判》である。資本制的な生産,流通,分配のしかたを研究して,資本主義社会の経済的な,編成および運動法則を明らかにし,そこから社会主義革命の必然性(=社会主義体制の優越性)を証明しようとした。マルクス経済学およびマルクス・レーニン主義の基本文献。マルクス経済学
【成立】
マルクスは,1844年ころヘーゲル法哲学の批判的再検討を通じて,近代ブルジョア社会の解剖学は経済学のうちに求めなければならない,とする予想に達した。…
…このように農民層の分解は,多種多様な農村プロレタリアートと農村ブルジョアジーを形成し,農業内外に新しい生産関係,資本関係を創出し,かつそれを拡大していくのである。 換言すれば,農民層分解は資本蓄積の一環をなす過程であり,具体的には労働力の蓄積,国内市場の創出,階級関係の拡大の過程であった。この過程は大別すれば,資本の本源的蓄積(原始的蓄積)段階と資本主義的蓄積(剰余価値蓄積)段階とに区分される。…
※「資本蓄積」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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