社会主義的原始蓄積(読み)しゃかいしゅぎてきげんしちくせき(その他表記)первоначальное социалистическое накопление/pervonachal'noe sotsialisticheskoe nakoplenie ロシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会主義的原始蓄積」の意味・わかりやすい解説

社会主義的原始蓄積
しゃかいしゅぎてきげんしちくせき
первоначальное социалистическое накопление/pervonachal'noe sotsialisticheskoe nakoplenie ロシア語

E・A・プレオブラジェンスキーによってその著書『新しい経済』(1926)のなかで体系的解明がなされ、「資本主義から社会主義への過渡期」における基本的法則と規定された概念。社会主義的本源的蓄積または社会主義的予備蓄積ともいう。1920年代のソ連における工業化論争の過程で重工業優先の加速的工業化を主張したトロツキー派の見解を経済学的に裏づけ、この路線の可能性を証明する理論として提唱された。もっとも、この用語そのものは彼以前にB・M・スミルノフによって提起されたといわれる。

 プレオブラジェンスキーの規定によれば、社会主義的原始蓄積は本来の社会主義的蓄積とは概念上区別されるべきであり、後者が国営経済内部で創出された剰余生産物を機能生産手段に加えることを意味するのに対し、前者は前社会主義的経済諸形態(おもに小生産)から物的資源国家手中に蓄積することを意味する。社会主義的原始蓄積は、権力奪取に続く大工業の国有化とともに開始され、本来の社会主義的蓄積と並存しつつも――さらにはこれをも自己の目的に従属させつつ――「過渡期」全般を通じその主要な蓄積形態とならざるをえないのであり、それによって国営経済の技術的再編成と資本主義に対するその純経済的優越性の実現を大いに早めるのだとされる。したがってこの蓄積形態は、社会主義に移行する国の経済が後進的・小農国的性格をもち、革命の際に社会主義的蓄積元本に組み入れられる遺産が少なければ少ないほど、いっそう大きな意義をもたざるをえない。しかし程度の差はあれ、どの国も――歴史上最後に社会主義に移行する諸国例外となるかもしれないが――この蓄積形態を避けることはできないだろうと彼は考える。

 彼によれば、社会主義的原始蓄積法則は、過渡期における社会主義国家の計画化原則そのものにほかならず、私営経済を代表する価値法則との闘争を通じ国営経済の生存自体とその発展を可能にするのである。

 社会主義的原始蓄積の方法としては、(1)前社会主義的経済諸形態に対する課税(強制的な国債割当て、紙幣の発行、差別的運賃の適用などもその一種だとされる)、(2)銀行独占に基づく、信用創造を通じた自由資源の動員、(3)価格政策を通じる意識的な不等価交換、があげられている。このうち価格政策による蓄積は、社会主義が独占資本主義を経過して成立したことによって、独占価格のより展開した形態として可能となったものであり、徴税費用が不要な点でとくに有利だとされる。

 以上の内容をもつ社会主義的原始蓄積概念は、当時党を代表したブハーリンによって、小生産の食いつぶし・労農同盟破壊の理論として激しく攻撃され、ソ連の公認経済学では市民権を得られなかった。プレオブラジェンスキー自身、1930年代粛清の犠牲者となった。だが皮肉なことに、スターリン指導下の工業化路線のもとで彼の理論は農業集団化(彼自身はこれを将来のことと考えていた)と結合されつつ暴力的な形で実現された。

 プレオブラジェンスキーは社会主義的原始蓄積過程の実証的分析も準備したようであるが、それはついに刊行されず、彼以降も例外的にしか試みられていない(参考文献に掲げたA・A・バルソフ〈原書は1969年刊〉および平泉の著書を参照)。

[平泉公雄]

『E・A・プレオブラジェンスキー著、救仁郷繁訳『新しい経済』(1967・現代思潮社)』『A・A・バルソフ著、小山洋司抄訳「価値視点からみた都市と農村との間の交換のバランス」(『アジア経済』1976年10、11月号所収・アジア経済研究所)』『平泉公雄著『社会主義的工業化と資本蓄積構造――ハンガリーの歴史的経験』(1979・アジア経済研究所)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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