改訂新版 世界大百科事典 「社会的総資本」の意味・わかりやすい解説
社会的総資本 (しゃかいてきそうしほん)
aggregate social capital
gesellschaftliches Gesamtkapital[ドイツ]
資本主義社会では,個別的資本がそれぞれの生産を担当する主体である。多数の個別的資本は同種および異種の産業において,それぞれに異なる使用価値の商品を生産しつつ,たえず,より高い利潤率を求めて相互に競争している。その競争は商品経済的な売買関係,すなわち商品市場や貨幣市場を介して相互に結びつけられているが,本来的には無政府的な競争である。しかしこの無政府的競争は,個別的資本の意図とは無関係に,結果として一つの社会的均衡をつくりださねばならない。というのは,資本主義社会においても,なんらかの形で,あらゆる社会に共通の物質的再生産に必要な社会的労働の編成,つまり人間生活にとって不可欠な衣食住を満足させるに必要な社会的労働の編成と,その結果としてもたらされる労働生産物の社会的配分が達成されねばならないからである。そしてこのことは,個別的資本のジグザグの運動過程をとおして,すなわち絶えざる不均衡の中の均衡の過程として達成される。この具体的な運動が資本主義に特有の景気循環を生みだす。とりわけ第1次大戦前の資本主義経済では,まだ政府の経済政策の役割が小さく,このために景気循環は,必ず商品経済的強制力をもつ循環性恐慌をともなって展開された。換言すれば,個別的資本の一部は必ず恐慌の結果,倒産・整理され,社会的に過剰な資本として処理されたのである。
社会的総資本とは,このような無政府的運動をとおして社会的労働編成を達成した個別的資本の総称のことであり,したがってそれは,競争の出発点にあって社会的総資本としての実をまだ達成していない個別的資本のたんなる集合とは区別されなければならない。
執筆者:侘美 光彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報