日本大百科全書(ニッポニカ) 「神学・政治論」の意味・わかりやすい解説
神学・政治論
しんがくせいじろん
オランダの哲学者スピノザの主著の一つ。1670年刊。原題は“Tractatus Theologico-Politicus”。本書は、教会に対する国家の優位を前提に、思想・言論の自由の確立を目ざして徹底した聖書批判を展開する。その方法は、聖書を一個の自然物として扱い、自然研究同様、とらわれない精神で、つまり理性による解釈すら排して、聖書を聖書そのものから解釈しようとするものであった。預言、預言者、選民、神の法、奇蹟(きせき)など聖書全般に検討を加えるが、従来の諸説を偏見ときめつける革命的な内容であったため、著者名を秘し、出版地・発行人を偽って公刊せざるをえなかったにもかかわらず人々は容易に真の著者を探り当てて糾弾し、1672年、本書を禁書に指定してしまった。「無神論者」と非難され続けたスピノザが本書に寄せた汚名の除去という実践上の意図は、みごとに挫折(ざせつ)したが、聖書批判の方法論は後世、本書を通じ一般に受け入れられている。なお、本書の政治論は『国家論』に敷衍(ふえん)された。
[佐々木髙雄]