植物が生育できず、あるいは枯死などのために岩肌が露出している山。その原因は多岐にわたるが、岩石・土壌の性質や気候条件などの自然要因と、森林の乱伐、鉱山地域における煙害、土壌の採掘などの人為的原因がある。鉱山地域とくに銅の製錬によって二酸化硫黄(いおう)(亜硫酸ガス)が放出され、周辺の樹木が枯死して禿山を形成する。この例としては、栃木県西部足尾銅山の渡良瀬(わたらせ)川上流域が有名で、同種の禿山は茨城県の日立(ひたち)銅山、秋田県の尾去沢(おさりざわ)鉱山、小坂鉱山の例がある。禿山の地域は裸地が広いので、土砂流出が著しく、渡良瀬川上流では河床は数メートル上昇し、洪水の被害を増大させている。愛知県の瀬戸市、多治見(たじみ)市付近では、陶磁器の原料である陶土を広範囲にわたって採掘しているため禿山の地域が広い。また、瀬戸内海沿岸の花崗(かこう)岩地域では、その風化土壌が植物の生育に悪い条件となっている。すなわち、風化土壌が石英質で細粒物質は雨の流出水によって運搬され、植物の生育には悪条件となっている。また、森林が伐採されると、土壌層が直接降雨にさらされ、細粒物質が加速度的に流亡し、植生の回復が不可能となり、禿山が形成される。人工的に禿山を形成することは国土を荒廃させることにつながる。森林を愛護し保護する国民的運動を促進することや土壌保全に留意し、禿山による荒廃を防止することが重要である。
[市川正巳]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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