翻訳|libration
力学系を記述する変数のうち,角度をあらわす変数が,ある値のまわりを振動することをいう。秤動は回転rotationに対応する術語で,簡単な例としては振子の運動が考えられる。エネルギーが小さいと左右に秤動(振動)し,エネルギーが大きいと,ぐるぐる回転する。秤動は,力学系が共鳴または平衡状態に近いときにあらわれる。トロヤ群小惑星は,太陽と木星でつくられる正三角形の頂点近傍にとどまっている。トロヤ群小惑星と木星の黄経の差は60度のまわりを秤動している。冥王星と海王星の公転周期の比は3:2に近く,冥王星の黄経の3倍と近日点黄経の差から海王星の黄経を引いたものは,180度のまわりを76度の振幅で秤動していて,その周期は約2万年である。さらに冥王星の近日点そのものも秤動している。冥王星の軌道は海王星の軌道の内側に入り込むが,上記の状態にあるため,冥王星が海王星に大接近することは起こらない。
月は平均的には同じ面を地球に向けているが,地球上から見ると上下左右にゆれ動いているように見え,月面の約59%を見ることができる。これには大きく分けて二つの原因がある。(1)光学秤動 月が等速円運動でなくて,楕円運動をしているので太陽によって運動が乱され,左右にゆれるように見える。これを経度秤動という。月の赤道面が月の軌道面に対して6.7度傾いているため,上下にゆれて見え,月の両極付近がよけいに見える。これを緯度秤動と呼ぶ。また観測者が地表にいるため,月の出入りのときには月の上部がよけいに見える。これを日周秤動という。これら3種の秤動は,地表にいる観測者から見る月の方向が変化することによるものであって,光学秤動または幾何学秤動と呼ばれている。(2)物理秤動 月の自転軸や自転速度の変化に起因する真の秤動は物理秤動または力学秤動と呼ばれている。これは月が球でなく,地球方向に細長いラグビーボール形をしていて,太陽と地球によるトルクが働くために月そのものが振動しているからである。物理秤動は地球の回転運動における章動に対応している。その大きさは,角度にして数分程度であって,約7度にも達する光学秤動に比べて小さい。さらに地球の極運動に相当する自由振動も存在していて,月のレーザー観測から最近検出されるようになった。しかし強制振動である物理秤動よりさらに小さいのと,物理秤動の振幅を定める月の物理定数の精度が悪いことと,レーザーによる観測期間が短いため,自由振動の振幅は精度よく決定されていない。自由振動の周期と振幅が精度よく観測によって求められると,月の内部構造に関する情報が得られる。
執筆者:木下 宙
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一般に力学系においてある角度を示す変数が0~360度のすべての値をとりえず、ある一定の範囲内にとどまって振動する現象をいう。振り子の振動のような運動である。実例として、トロヤ群小惑星が太陽と木星とでつくる正三角形の頂点あたりに止まって秤動していることがあげられる。
月はいつも同じ面を地球に向けているが、地球から見ると上下左右に揺れ動いているように見える。これが月の秤動で、光学秤動と物理秤動に大別できる。前者は月が地球の周りを等速円運動をしていないこと、月の自転軸の赤道面と月の軌道面が一致していないことなどのためにおこり、その大きさは約7度角(1度は円周=360度の360分の1の角度)にも達し、ほぼ27日周期で生じる。後者は地球や太陽の引力の作用のために月の自転速度や自転軸が変化しておこる。物理秤動の大きさは光学秤動に比べて小さく数分角(1分は1度の60分の1の角度)である。なお、秤動は正しくは「しょうどう」であるが、「章動(しょうどう)」と紛らわしく、一般に秤動(ひょうどう)と発音する。
[大脇直明]
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…現在まで使われているのは1923年から採用されているE.W.ブラウンの理論であるが,最近フランスのシャプロンJ.Chaprontらがより精密な理論を完成し,各国で採用されようとしている。
[月の自転と秤動]
月の自転運動はかなり複雑なのであるが,大ざっぱにみれば次の三つの法則によって支配されているといってよい。(1)月の自転軸の方向は月に対しても空間に対しても固定しており,自転周期は公転周期に等しい。…
※「秤動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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