移動層(読み)いどうそう(その他表記)moving bed

改訂新版 世界大百科事典 「移動層」の意味・わかりやすい解説

移動層 (いどうそう)
moving bed

固体粒子を静止させ,その空隙内に流体を流し,固体と流体の接触操作によって熱移動,物質移動,化学反応などを行わせるとき,その粒子層を固定層fixed bedまたは充てん(塡)層packed bedという。充てん層内の粒子を底部から連続的に抜き出し,上部から新しく供給して,層内粒子を重力により少しずつ降下させ,連続的に固体と流体の接触操作を行うとき,これを移動層とよんでいる。移動層では,流体と固体が,向流(互いに反対方向に流れる),並流(同じ方向に流れる),十字流(直角方向に流れる)のいずれの操作も可能である。

 移動層の工業的利用法としては,活性炭の選択的吸着性を利用した低級炭化水素の連続分離法(ハイパーソープション),石炭のルルギ式ガス化法がある。乾式排煙脱硫法にも用いられている。溶鉱炉鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する移動層反応装置と考えることができる。石炭ストーブは石炭の移動層燃焼方式といえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「移動層」の意味・わかりやすい解説

移動層
いどうそう
moving bed

連続的に塔頂から固体粒子を供給して、重力によってゆっくり降下させ、向流または並流に気体液体と接触させる装置。移動床ともいう。移動層は流動層と、粒子を固定させた充填(じゅうてん)層との中間的な特性をもつ。固体粒子はほぼ均一に移動し、半径方向の速度分布は少なく、押出し流れに近い。装置内の粒子の変化速度と移動速度をつり合わせて、装置の定常運転が可能である。ただ、粒子層内の温度を均一にするのがむずかしい。この装置は固体―流体間の伝熱、物質移動、反応などに利用されている。球状の固体粒子を熱媒とするペーブルヒーター、活性炭による分別吸着、連続式イオン交換装置は、この応用例である。また石油の熱分解反応、析出した炭素によって劣化した固体触媒の燃焼による再生、鉄鉱石の還元による鉄の製造などの反応にも適用されている。石灰炉や溶鉱炉は縦形炉であるが、セメント回転炉や回転乾燥器などは横形であって、これも一種の移動層である。

[大竹伝雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「移動層」の解説

移動層
イドウソウ
moving bed

移動床ともいう.固-液連続接触方式の一つ.縦型容器内の上方から送入された比較的粗い粒子群を重力によって降下させながら,粒子と向流または並流する流体と,反応,物質移動あるいは熱交換などをさせる形式の装置をいう.移動層は石油接触改質装置にも利用されているが,ロータリーキルンとともに,セメントの製造,石油の熱分解,けつ岩油の製造,ピッチのコークス化,鉱石のばい焼など,おもに固体の熱分解,固体間反応,金属の精錬などの高温操作に利用されている.とくに大きな径の装置を設計する場合,粒子速度ならびに流体速度が装置内で一様になっているように注意しなければならない.移動層の利点は,広範囲にわたる大きさの粒子を処理できる,粒子の摩耗が少ない,粒子速度,ガス速度とも変更が容易,逆混合が少ない,層内を適当な温度分布に維持しやすい,などである.一方,欠点は,層内温度の均一化や精密な温度調節が困難なことなどがあげられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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