銑鉄(読み)ずくてつ

精選版 日本国語大辞典 「銑鉄」の意味・読み・例文・類語

ずく‐てつ づく‥【銑鉄】

〘名〙 溶鉱炉から鋳型に流しこみ、かたまらせたなまこ形の不純な鉄。その色によって白銑鉄・ねずみ銑鉄に分ける。ずく。せんてつ
※通常金石(1882)〈辻敬之〉金類生鉄(ヅクテツ)

せん‐てつ【銑鉄】

〘名〙 鉄鉱石コークスまたは木炭などで還元して得られる高炭素の鉄。ふつう三~四パーセントの炭素と少量の珪素マンガン・燐・硫黄などを含む。ほとんどは高炉でつくられ、製鋼用銑鋳物用銑に大別される。ずく。ずくてつ。生鉄。〔工学字彙(1886)〕

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デジタル大辞泉 「銑鉄」の意味・読み・例文・類語

せん‐てつ【×銑鉄】

鉄鉱石を溶鉱炉で還元して取り出した鉄。3~4パーセントの炭素と少量の珪素けいそ硫黄りんなどの不純物を含み、硬くてもろい。大部分は製鋼用に、一部鋳物用に使われる。ずく鉄。ずく。
[類語]くろがね鉄材鉄分鋼鉄鉄鋼こうはがねスチールステンレス鋳鉄屑鉄砂鉄

ずく‐てつ〔づく‐〕【×銑鉄】

銑鉄せんてつの俗称。

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百科事典マイペディア 「銑鉄」の意味・わかりやすい解説

銑鉄【せんてつ】

炭素含有量によって大別したとき,炭素2%を越えるものを銑鉄(2%以下は)という。ふつう炭素3〜4.5%,ほかにマンガン,ケイ素,硫黄,リンなどを少量含有する。靭性(じんせい)(粘り強さ),可鍛性は低いが鋳造性がよい。銑鉄のほとんどは鉄鉱石高炉で還元製錬して作る高炉銑で,これに対し電気製銑,木炭銑などを特殊銑と呼ぶことがある。また炭素の存在の仕方により破面(割れた面)の色が著しく異なり,鼠銑(ねずみせん),白銑などに分けられる。銑鉄の大部分は製鋼原料に使用されるが,鋳物用とされるものも多い。
→関連項目キュポラ原料炭鋼鋳物製鉄鋳鉄鉄鋼パドル法

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改訂新版 世界大百科事典 「銑鉄」の意味・わかりやすい解説

銑鉄 (せんてつ)
pig iron

鉄を炭素含有量によって分類するとき,炭素約2.0%以上のものを銑鉄,それ以下のものをという。われわれの最も身近にある鉄は鋼であるが,それはおもに銑鉄からつくられている。この場合の銑鉄は製鋼用銑と呼ばれ,鋼にくらべて,とくに炭素を多く含む点に特徴がある。もともと鉄の原料は鉄鉱石であるが,現在この鉄鉱石から鉄を取り出すには,高炉を用いるのが最も容易であり,安価である。しかし,この場合はコークスを用いるため,コークス中の炭素が必ず鉄に溶けこみ鉄は銑鉄になる。高炉から出された状態の銑鉄の温度はほぼ1500℃であるが,約4.5%の炭素を含んでいるために,温度が下がっても1200℃前後までは溶けた状態にあって流れやすく,型に流しこんで鋳物にするにはすぐれている(純鉄の融点は1535℃)。しかし,固まった銑鉄は圧縮に対しては強いが,一般に曲げや引張りには弱い。したがって,延ばしたり引いたりして板状棒状に加工することがむずかしい。この原因は炭素を多く含む点にあるので,溶けた状態の銑鉄に酸素を吹きこんで炭素を一酸化炭素の形で取り除き,より加工しやすく,使いやすい鋼に変えられる。なお,大型歯車などの鋳物に用いられる銑鉄はケイ素の含有量が高く鋳物用銑(〈ずく〉)と呼ばれるが,日本で生産される量は全銑鉄量(1996年約7570万t)の1.5%前後にすぎず,ほとんどの銑鉄が製鋼用銑である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「銑鉄」の意味・わかりやすい解説

銑鉄
せんてつ
pig iron

溶鉱炉によってつくられた高炭素の鉄。現在広く行われている鉄鋼製錬の工程は、まず鉄鉱石と造滓(ぞうさい)剤である石灰石と燃料および還元剤としてのコークスを溶鉱炉に装入し熱風を吹き込んで鉄鉱石を加熱、還元し、炭素を4%前後含む溶融状態の鉄とする。これを銑鉄という。この銑鉄を転炉に移し、酸素を吹き付けて炭素やその他の不純物を酸化して除去し、これを凝固させて圧延その他の塑性加工により鋼の板や棒をつくる。銑鉄にはこのように鋼の原料に用いる製鋼用銑鉄と、酸化製錬をせずに成分を調整して鋳鉄鋳物にするための鋳物用銑鉄とがある。鋳鉄鋳物には凝固時に黒鉛結晶を形成させる必要があるので、鋳物用銑鉄は製鋼用銑鉄に比べてケイ素が多くマンガンが少なく、またその他の微量不純物も鉄鉱石を吟味して少なくしている。溶鉱炉でつくった銑鉄を高炉銑、電気炉でつくったものを電気銑、木炭を還元剤および燃料としてつくったものを木炭銑、酸性転炉用の製鋼用銑をベッセマー銑、その他とくにリンの少ない低リン銑やケイ素の多いシルバリー銑、バナジウムとチタンとを含むバンチット銑など種々の特殊銑鉄がつくられている。

[井川克也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「銑鉄」の意味・わかりやすい解説

銑鉄
せんてつ
pig iron

鉄の高炉で生産される粗製の鉄。通常炭素 3~4%,ケイ素 Si 0.5~1.4%,マンガン Mn 0.2~1.0%,ほかに不純物としてリン,硫黄,銅などを含み,製鋼原料となる。以前は特にリンの多いトマス銑,あるいはケイ素,マンガンの多いベッセマー銑もつくられたが,現在はほとんど塩基性酸素製鋼用である。成分中のケイ素は炭素を黒鉛化して遊離させ,マンガンは炭素をセメンタイト化する作用があるので,Si/Mn比の高いものは遊離炭素が多く破面が薄黒いのでねずみ銑または灰銑,低いものはセメンタイトが多く破面が白いので白銑,中間を斑銑(まだらせん)という。製鋼用銑は一般に白銑に近い(→鋳鉄)。日本工業規格 JISでは鋳鉄品原料も銑鉄の名で規格しているが,これは別に組成を調整したものである。標記の英語は,18世紀頃高炉前鋳床に溶銑を流して鋳造した鋳塊の形がブタに似ていたことに由来する。(→製銑

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化学辞典 第2版 「銑鉄」の解説

銑鉄
センテツ
pig iron

溶鉱炉(高炉)内で鉄鉱石の還元により生成した鉄.銑鉄は還元剤のコークスと接触して炭素を多量に吸収し,副原料の鉄マンガン鉱からのマンガン,鉱石から還元されたケイ素,リン,また,コークスや重油からの硫黄をも吸収する.以上の成分元素を5元素とよび,鉄鋼製錬過程では非常に重要なものである.このほかにもチタン,クロム,ニッケル,銅などもごく微量入れることがある.これら成分元素の含有量は,操業条件によって多少制御することができる.銑鉄はその用途によって,鋳物用と製鋼用の二つに大別できる.鋳物用の特徴は湯流れをよくするためにケイ素量が多い.各銑鉄の組成の一例を次に示す.

鋳物用銑は,高炉から出ると小さな鋳型に鋳込まれて,鋳物原料となる.銑鉄の大部分を占める製鋼用銑は,溶けたまま製鋼工場に運ばれ,転炉などによって酸化製錬をうけて鉄以外の成分元素の少ない鋼となる.

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普及版 字通 「銑鉄」の読み・字形・画数・意味

【銑鉄】せんてつ

ずく。

字通「銑」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の銑鉄の言及

【製鉄・製鋼】より

…鉄鉱石から鋼をつくる工程をいい,前段の銑鉄をつくる工程を製鉄または製銑といい,後段の銑鉄から鋼をつくる工程を製鋼という。製銑,製鋼,さらに鋼材,製品製造までを行う銑鋼一貫製鉄所の工程例は〈製鉄所〉の項の図を参照。…

【鋳鉄・鋳鋼】より

…鋳鉄cast ironとは銑鋳物(ずく鋳物)用の銑鉄または銑鋳物そのものをいう。炭素3.0~3.6%,ケイ素1~2%,マンガン0.5~1.0%,リン0.3~1.0%,硫黄0.06~0.1%を含む鉄合金で,鋳造しやすく,また切削加工しやすい材料である。…

【鉄鋼業】より

…鉄鋼業はしばしば〈産業の米〉といわれる基礎素材としての鉄鋼材を諸産業に供給する基幹産業である。鉄鋼材には純鉄,銑鉄,鋼,フェロアロイ(合金鉄)などがあるが,最も広範に使用されるのは銑鉄と鋼である。銑鉄は炭素含有量1.7%以上であり,固くてもろいので,圧延,鍛造などの加工が困難であるが,融点が低く,溶かして鋳物にするのに適している。…

※「銑鉄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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