他の物と区別さるべき一定の性質を有する物(種類物)の一定数量の給付を目的とする債権。種類債権は不特定物債権ともいわれ,特定物債権と対置される。ビール1ダースとか米10kgの給付を求める債権が前者であり,所在を示した土地や建物の引渡しを請求しうる債権が後者である。特定物と不特定物(種類物)の区分は,物の客観的性質に従って--代りの物が存するかどうかによって--区分される代替物と不代替物の対置とは異なり,当事者の客体に対する主観的限定の程度の差であるから,場合によっては,そのいずれであるか判然としないこともありうる。たとえば,百貨店で顧客が,ある型式の電気洗濯機を指し〈これを下さい〉と言った場合,この指定されたものを特定物とみるより,〈この型式の電気洗濯機を1台〉と解すべきであろう。ところで,特定物債権は,債務者は指定(特定)されたその物を給付しさえすれば,問題は残らないから,引渡しをなすまで債務者は〈善良なる管理者の注意diligentia bonis patris familias〉をもって目的物を保管する義務を負うにとどまる(民法400条)。〈善良なる管理者の注意〉とは,ドイツ法にいう,〈取引上要求される注意die im Verkehr erforderliche Sorgfalt〉であって,普通の人を基準とすると解してよい。これに対して種類債権においては目的物が〈ビール1ダース〉なのであるから,とにかく具体的に〈どのビール1ダース〉かを確定しなければ,給付することができない。この確定を種類債権の特定または集中という。
〈特定〉の基準については民法401条が規定しているが,その内容は次のとおりである。(1)持参債務の場合,すなわち,債務者が債権者の住所へ届けなければならない場合(これが原則である)には,前述の例でいえば,ビール1ダースを債権者宅へ届けたときに,(2)債権者が債務者の住所まで受け取りにくる(取立債務の)場合には,債務者がビール1ダースを取り分け,債権者が来ればすぐ持って帰れるように準備したうえ,その旨を債権者に通知すれば,特定する。(3)債権者の住所,債務者の住所以外の場所で履行すべき送付債務の場合には,債務者が好意的に送付するときは発送した時点で,送付する義務を負うときはその場所へ到達したときに,特定を生じる。(4)債権者が債務者の指定したビール1ダースを目的物とすることに同意したときに,特定を生じるのは,当然である。
特定すれば,そのときからその物が債権の目的物となるから,特定物債権として扱われることとなる。民法400条の義務が債務者に生じ,売買上の債権のときは債権者たる買主は目的物の所有権を取得し,危険は債権者に移ることとなる(民法534条)。問題は,特定後は,その物に瑕疵(かし)があった場合でも売主の瑕疵担保責任(570条)を,債権者は債務者に対して問いうるのみか,それとも,取替え(代物請求)を求めることもできるのか,である。特定後にも,債務者には,目的物を変更する権利が認められているところからすれば,代物請求をもなしうると解すべきであろう。つまり,種類債権の目的物の特定は,債務を履行する前提として不可避であり,その限りにおいて特定後は特定物債権と同じように扱われるが,目的物の取替えは,もともと特定の物を債権の目的物とした特定物債権においては不可能である。これに反して,種類債権の場合には特定後も可能ということになる。このことと関連して,売買の目的物が種類物である場合にも民法570条(売主瑕疵担保責任に関する規定)が適用されるかについては,さまざまの論議がある。なお,特定物債権においては,目的物が滅失してしまえば,履行不能を生じるが,種類債権では,履行不能を生じることは,きわめてまれである。というのは,ビール1ダースの給付は,ビールそのものがこの社会から姿を消すのでなければ,不能とはならないからである。ただ,種類債権の一種として制限種類債権と呼ばれるものがある。これは,たとえば,特定の倉庫内にある米10kgの給付を目的とするような債権をいう。特定の問題を生じることや,変更権が認められることは,種類債権におけるのと変りはない。はじめに述べたように,特定物・不特定物の対置と代替物・不代替物の対置は,それぞれ基準を異にするから,論理的には,代替物につき特定物債権が,不代替物につき種類債権が,それぞれ成立しうることとなる。しかし,実際には,特定物債権の目的物は不代替物であり,種類債権の目的物は代替物であるのが,一般的である。
執筆者:石田 喜久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
たとえば、ビール1ダースの売買のように、目的物が種類と数量だけで定められている物の引渡しを目的とする債権をいい、不特定物債権ともいう。目的物の種類と数量が定まっていても、品質が分かれているときに、どの程度の品質の物を引き渡すべきかは、当事者の意思または法律行為の性質(たとえば消費貸借の借り主は、借りた物と同じ品質の物を返還する)によって定まるが、これらの基準によっても定まらない場合には、債務者は中等の品質の物を引き渡すべきである(民法401条1項)。種類債権は、債権成立のときにはまだ目的物が種類と数量によって抽象的に定まっているにすぎないから、実際に履行するに際しては具体的にどの物を給付するかを確定しなければならない。これを種類債権の特定または集中という。なお、たとえば、この倉庫の中の米500俵というように、同じ種類の物の中からさらに当事者によって限定された範囲の物の引渡しを目的とする債権を、制限種類債権あるいは限定種類債権という。
[竹内俊雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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