当事者の一方が同種類,同等,同量の物を返還することを約束して相手方から金銭その他の物を受けとることによって成立する契約(民法587条)。借主が借りた物その物を返すのではない点,賃貸借と異なる。借主が貸主から10万円を借りて,その金銭自体は消費してしまって,弁済期に10万円を返すという契約などがその例。金銭の貸借に代表されるが,金銭だけでなく,公債その他の有価証券も消費貸借契約の目的物たりうる。かつては穀物などについても行われた。消費貸借には利息付のものとそうでないものとがあるが,商人間の金銭消費貸借では特約をおかなくても当然に利息付となるが(商法513条1項),それ以外のところでは利息付との特約がなければ利息付とはならない。
金銭の消費貸借は,大企業の巨額の資金調達から生活費のための少額な庶民の消費金融まで重要な役割を果たしているが,消費貸借契約の内容や効力を定めている民法(587条以下)は,市民社会の基本原理の一つである契約自由の原則というたてまえに立っているので,利息の制限など規定していない。そこで一方では,融資面において,日本開発銀行法(1951公布),長期信用銀行法(1952公布)をはじめ,中小企業に向けては中小企業信用保険法(1950公布),中小企業金融公庫法(1953公布)など,また小口の庶民金融に向けて質屋営業法(1950公布),公益質屋法(1927公布),国民金融公庫法(1949公布)などの立法がされているとともに,他方で,サラリーマン金融規制に見られるような,高金利規制や暴力的取立ての禁止のための立法がなされている。
銀行などの金融機関が行う預貯金や貸付けの利率については臨時金利調整法に基づいて利率の最高限が定められてきた(1994年以降,金利は自由化された)が,今日社会問題となっているのは,銀行等以外の,サラリーマン金融業者等によるもっと高金利の金銭の貸付けである。これに対しては,利息制限法,〈出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律〉(1954公布。以下,出資法と略称),および,〈貸金業の規制等に関する法律〉(1983公布。以下,貸金業規制法と略称)がある。
利息制限法は利息の最高限を定め,その超過部分を無効とした(1条1項)。なお金銭の消費貸借では,利息とは弁済期までの,ちょうど賃貸借における賃料に相当するものをさすが,弁済期後も返済が遅れる場合の遅延損害金(遅延利息ともいっている)も,利息の計算と同じように約定の利率で計算することが多く(この約定を〈賠償額の予定〉と呼んでいる),これについても利息についての制限と同じように規制を加える必要がある。そこで利息制限法は一項一項に定める額の2倍を遅延損害金についての限度とし,これを超える部分を無効とした(4条1項)。もっとも利息制限法はこれらの規定で無効とした制限超過部分を借主が任意に支払ったときはその返還を請求することができない,と規定した(1条2項,4条2項)。しかし任意に支払った制限超過部分の返還請求はできないとするこの規定は,最高裁判所判決によって事実上空文化されてきた(1968,69年の最高裁判所判決。いずれも任意に支払った制限超過部分の返還請求を認めた)。
このような状況に対して1983年にサラ金規制のために貸金業規制法の制定と,出資法の改正が行われた(いわゆるサラ金規制二法)。前者は貸金業者に対して登録の申請(4条),貸付けに際しての書面の交付(17条),弁済に際しての受取証書の交付(18条)などを義務づけた反面,他方で利息制限法に定める制限超過利息を借主が利息として任意に支払ったときは有効な利息の債務の弁済とみなすこととした。遅延損害金についても同様である(43条)。
出資法の改正は,従来,年率109.5%(日歩30銭)を超える金利で貸付けをした者に対して刑罰を科するとしていたのに対して,この年率を40.004%としたものである(もっとも1983年11月から3年間は年率73%,86年11月から91年10月までは54.75%との経過措置がとられた。付則2~4項)。この規制に触れる高金利は絶対的に無効で,貸金業規制法43条によって有効な利息の弁済とみなされる余地はない。
サラ金規制のもう一つの重要な柱は,暴力的取立ての禁止である。貸金業規制法21条1項は取立てに際して〈人を威圧し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により,その者を困惑させてはならない〉と定めた。もっともこの規定は抽象的なので,その実効性には疑問がもたれる。従来から暴力的取立てに際しても,警察が民事問題への介入をさけるとの配慮から取り締まりにくい事情がある。このため,例えば午後10時から午前6時までは電話をしたり訪問してはならないなどと具体的に例示したうえで,〈その他暴力的取立てをしてはならない〉という抽象的な包括規定をおくべきだとの考え方も立法論として強い。
執筆者:伊藤 高義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
金銭その他の代替物(米、麦、酒など)を借りてこれを消費し、同種・同等・同量の物を返還することを約する、要物・片務・不要式の契約。賃貸借、使用貸借とともに広義の貸借契約に属するが、目的物の所有権を移転し、のちに同種・同等・同量の別の物を返還すればよい点で、それらとは異なる。消費貸借は、目的物を受け取ることによってその効力を生ずる要物契約であるのが民法の原則である(民法587条)が、合意だけによって成立する諾成的消費貸借も可能であると一般に解されている。消費貸借の効力は、借り主が品等および数量の同じ物を返還する義務を負うことである。利息は、別段の合意がなければこれを支払う義務はない(無償契約)のが法律上の原則であるが、実際上は利息付きが多く、この利息の約定に対しては、利息制限法が適用される。なお、商人間の場合には、合意がなくても年6分の利息を支払わなければならない(商法513条、514条)。目的物の返還の時期は契約によって定まるが、その定めがないときには、貸し主は相当の期間を定めて、返還の催告をすることができる。預金のように、法律上の性質は寄託であっても、受寄者が契約により寄託物(金銭など)を消費することができる場合(消費寄託)には、消費貸借の規定が準用される(民法666条)。
[淡路剛久]
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