売買契約に基づいて買い主へ引き渡された目的物に、引渡しを受けたときには分からなかった瑕疵(欠陥やきず)があった場合、売り主が買い主に対して負う責任をいう。たとえば中古車を購入したところ、購入時には容易にみつけることができない不具合がエンジンにあり、買い主(購入者)が修理しなければならなかった場合には、買い主は売り主に対して修理に要した費用を損害賠償として請求することができる。さらに修理をしても運転に支障があって使用できないときは契約を解除することができる。売り主に過失があったかどうかは問わない。このような契約解除や損害賠償の責任(瑕疵担保責任)について、民法は「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは」、「買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができ」、「契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる」と規定する(民法570条・566条1項)。欠陥にあたるかどうかは、通常備えているべき品質や性能を有するかどうか、契約の趣旨から判断される。「隠れた瑕疵」とは、引渡しを受けたとき買い主に通常の注意をしてもみつけることができなかった欠陥があったことをいう。買い主が契約解除または損害賠償請求をするためには、買い主が瑕疵のあったことを知ったときから1年以内にしなければならない(同法570条・566条3項)。
この民法第570条が定める「売主の瑕疵担保責任」は、民法がとっている契約自由の原則のもとでは、特約で売り主の責任を排除したり、制限したりすることができるので、商品や契約についての専門知識が十分でない一般の買い主(購入者、消費者等、法律によって用語が異なる)を保護する規定が特別法に定められている。たとえば、消費者契約法第8条1項5号・2項は、瑕疵に対する売り主(事業者)の損害賠償責任を全部免責とする特約は無効とし、宅地建物取引業法第40条は、目的物の引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法第570条の規定より買い主に不利となる特約は無効としている。新築住宅の売買については「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が、民法第570条に定める瑕疵担保責任の特則をおいている。重要な点は3点あり、買い主に不利な特約を無効としている。第一に、住宅のうち構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分として、政令で定めるものを対象とする。第二に、買い主は民法第570条、第566条が定める契約解除、損害賠償請求権だけでなく、欠陥部分を修理せよという瑕疵修補請求権も有する。第三に、売り主は引渡しのときから10年間担保責任を負う(同法95条)。
また、民法第570条は、直接にメーカーの責任を定める規定ではない等の問題があったため学説上も議論があったが、1994年(平成6)に民法第709条(不法行為による損害賠償)の特則として、欠陥商品に対するメーカーの責任を定める製造物責任法が制定された。
なお、商人間の売買では買い主もその商品や商取引について専門知識があるので、権利行使には次のような制約をしている(商法526条)。買い主(商人)は目的物を受領したときは遅滞なくその物を検査しなければならず、商品に欠陥のあることが判明したときは、ただちに売り主に通知をしないと代金減額や損害賠償の請求ができない。検査をしても発見できないときは、6か月以内に発見した瑕疵についてのみ代金減額や損害賠償の請求ができる。
[伊藤高義]
『内田貴著『民法Ⅱ 第2版 債権各論』(2007・東京大学出版会)』
契約の目的物に欠点(瑕疵(かし))がある場合,その目的物の提供者(たとえば売主)の責任は,瑕疵担保責任ないし担保責任といわれる。瑕疵担保責任は広義では,目的物の性質の欠点(いわゆる物の瑕疵)のみでなくその法律的な欠点(いわゆる権利の瑕疵。たとえば,目的物である不動産に抵当権が設定されている)に対する責任を意味するが,前者すなわち物の瑕疵に対する責任を指している場合が多い。以下では,物の瑕疵担保責任を中心に述べ,権利の瑕疵担保責任は,〈追奪担保〉の項目で,物の瑕疵と権利の瑕疵の両者については〈担保責任〉の項目で説明する。
瑕疵担保責任の歴史は古代ローマにさかのぼる。奴隷と家畜の売買で悪徳商人がはびこったのに手をやいて,市場警察行政の一環として按察官訴権が買主保護のために導入されたのに端を発する。その後この特殊な救済は私法のなかに吸収されることになるが,19世紀のヨーロッパ諸国で近代民法典がつくられた時期には,瑕疵担保責任は主として売買法で規定され,他の契約規定に関係条文がおかれるにとどまった。
物の瑕疵は,客観的な物理的性質に限ることなく(客観説),ひろく,契約目的上予定された特定の使用目的に適した性質を欠くことも含む(主観説)。それは,物の性質の〈ある状態〉と契約上〈あるべき状態〉との不一致である。見本や広告で表示された性質やとくに保証された性質を欠く場合はここに入る。この瑕疵の解釈は拡大され,目的物とそれをとりまく外界との関係も考慮されつつある(たとえば,ある土地における騒音やそこからの眺望破壊)。また,判例上,本来は法律上の欠点である事例(たとえば土地の建築制限)も,民法所定の権利の瑕疵に該当しない場合にはこれを物の瑕疵とする傾向にある。
民法は,売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合に,買主に損害賠償請求権を認め,そのために契約目的を達成しえない場合には契約解除権をも認める。これらの権利は買主が瑕疵を知ってから1年内に行使しなければならない(570条による566条の準用)。商人間の売買では,買主が商品を受け取って遅滞なく検査し瑕疵あることを通知しないと買主は救済を受けられない(商法526条)。さらに,民法は,利息付消費貸借で,瑕疵なき代物の請求権(590条)を,請負契約で瑕疵の修補請求権(634条)を定めているが,有償契約に対しては売買規定を準用する(559条)。つまり,売買規定が瑕疵担保の総則,とされている。
契約の目的物に瑕疵があると,売買契約の場合に売主はその義務を尽くしたことになるのか,という問題がある。特に問題になるのは,土地や家の売買のごとくその目的物かぎりの特性に着目して取引される,いわゆる特定物売買の場合である。その際,その物の引渡しのみが契約合意の内容であって,その物に瑕疵があるかないかといった性質は契約合意がなされるに至る動機であり内容でないとする伝統的な理論(〈特定物のドグマ〉)をとるかどうかが分岐点である。この理論をとると,瑕疵担保責任は契約外の特別の買主保護規定となり,それを否定すると一般の債務不履行責任の特則となる。長年にわたるこの学説の対立は,売主の修補義務や代物給付義務,損害賠償の範囲,瑕疵ある特定物の受領拒絶権等に関連して差が生じうるが,まだ決着がついていない。近時の外国の立法例や動産売買に関する国際条約では両責任を融合したものがある。なお,大量に生産販売される商品のように,種類によって目的物が指示される〈種類売買〉(不特定物の売買)では,瑕疵ある物の給付は不完全履行であるが,判例は買主が履行として認容して受領すれば瑕疵担保責任の適用を肯定する。これも論点の一つである。
類似の制度に品質保証書がある。これは,商品に瑕疵・不具合があると,メーカーが一定期間,部品の取替えないし補修をするもので,一種の履行保証契約と解される。これはメーカーの責任であって売主の責任ではないが,品質保証のための法という観点から,瑕疵担保責任および不完全履行責任とあわせて総合的に理解する必要がある。さらにサービスや情報が取引の目的である場合,瑕疵担保責任も重要な検討課題である。
執筆者:北川 善太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…民法400条の義務が債務者に生じ,売買上の債権のときは債権者たる買主は目的物の所有権を取得し,危険は債権者に移ることとなる(民法534条)。問題は,特定後は,その物に瑕疵(かし)があった場合でも売主の瑕疵担保責任(570条)を,債権者は債務者に対して問いうるのみか,それとも,取替え(代物請求)を求めることもできるのか,である。特定後にも,債務者には,目的物を変更する権利が認められているところからすれば,代物請求をもなしうると解すべきであろう。…
※「瑕疵担保責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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