改訂新版 世界大百科事典 「積分幾何学」の意味・わかりやすい解説
積分幾何学 (せきぶんきかがく)
integral geometry
古くから幾何学的確率の問題として知られた問題がある。例えば(ユークリッド)平面におかれた二つの円周S1,S2に対して,その一方S1に交わる直線がもう一方S2にも交わる確率を求めよというものなどがそれである。このような問題に対して基本的であるのは,平面における直線の種々の集合の大きさをうまく測ることである。もしこれができれば上の問題の解は,S1およびS2にともに交わる直線のなす集合の大きさと,単にS1に交わる直線のなす集合の大きさとの比をとればよいからである。ただ単に直線の集合の大きさを測度として測るだけならば,これは測度論の問題であるが,それをうまく幾何学的な自然さを保ちながら定めようというところに積分幾何学が展開されるのである。
この自然な,うまい測度は,基本にとった合同概念から,対象とする集合へ自然に延長されてできる合同概念に対して不変なものとして定義される。上の直線族の場合であれば,基本となるのは,回転,平行,折返し移動,すなわち運動による重ね合せ合同であり,したがって直線族Aが平面の運動によって直線族Bに(全体として)重なるとき,Aの大きさとBの大きさが等しく測られていることが要請されるのである。この測度は,直線の集合に適当な座標系を導入することによってある種の微分形式の積分によって表される。積分幾何学の名称の起源もあるいはこの辺にあるのであろう。
抽象的にいうと積分幾何学の第1の問題は,集合Lと,その部分集合族Mのうえの同値関係~とが与えられたとき,集合L上の測度μで関係~によって不変なもの,すなわちA,B∈Mに対してA~Bならμ(A)=μ(B)なるものを求めよということになるが,実は集合Lは,例えば直線のように,ある空間のうえの幾何学的な対象の集合であり,関係~はその空間で基本にとった幾何学から自然に導かれたものである。このことがいろいろな場合に不変測度の積分による幾何学的な構成を可能にするわけである。また,第2の問題は,このようにして得られた測度がどのように応用され,どのような結果が導かれるかという点である。幾何学的確率の問題への応用が期待されることは,すでに明らかであろうが,そのほかにも,例えば等周問題のように,ある束縛条件を満たす図形の全体を考え,その長さ,面積などが満たすべき等式,または不等式を証明しようとするときにも有効である。実際,長い間得られなかった等周問題の厳密な証明の一つは,積分幾何学的な手法によって与えられている。
執筆者:四方 義啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報