改訂新版 世界大百科事典 「窒素定量法」の意味・わかりやすい解説
窒素定量法 (ちっそていりょうほう)
determination of nitrogen
試料に含まれている窒素元素の量を測定する方法。窒素は生元素の一つであって,生物圏における窒素の動きは,個々の生物の生育から生態系の維持・遷移に至るまでの生物の生存と関連する問題を規制する重要な要因になっている。一方,気圏には窒素はN2の形で大量に存在するだけでなく,NOx,N2O,NH3などの形で微量ないしは少量含まれているが,これらの微量成分が環境としての大気の質を左右している。したがって窒素定量法は,これらに対する問題を理解し,解決を図る努力と深くかかわっており,生態学,生理学,生化学,医学,薬学,土壌学,栄養学,肥料学,食糧・飼料学,地球化学,環境科学など多くの分野で頻用されている。ところで試料に含まれている窒素化合物の種類は試料によって大きく異なっており,同一試料にもしばしば多種類の窒素化合物が共存している。しかし窒素定量の立場からすれば,多種類の窒素化合物を数種のグループに区分できる。たとえば有機態窒素化合物(タンパク質,アミノ酸,アミノ糖,核酸など)は,そのほとんどすべてを一つのグループとして取り扱うこともできる。すなわち,これらの有機態窒素化合物は,いずれも酸化銅などの酸化剤の存在下,N2を含まない気流中で強熱分解するとN2に変わり(デュマ窒素定量法),硫酸銅などを含む濃硫酸液中で加熱分解するとNH4⁺に変わる(ケルダール窒素定量法)。したがって加熱分解後は,有機態窒素化合物の定量はN2あるいはNH4⁺の定量に帰することになる。無機態窒素化合物としてはNH4⁺,N2,N2O,NO,NO2⁻,NO3⁻などが,通常,分析の対象となる。これらの化合物は,それぞれ異なった方法を用いて個別に定量できる。上述したことから明らかなように,試料に含まれている窒素元素の量は,窒素化合物の各グループに含まれている窒素元素の量の総和として表されることになる。またこのことは,試料に含まれている窒素化合物各グループの相対的割合が窒素定量法によって求められることを意味している。有機態窒素化合物の加熱分解法,無機態窒素化合物の定量法は,いずれも現在高度の発達を遂げている。対象の性格と分析の目的を考慮して最も適した方法を選択する必要がある。
執筆者:和田 秀徳 有機態窒素の定量法は数多くの研究があるが,そのなかでも最も多用されているデュマ窒素定量法とケルダール窒素定量法について述べる。
(1)デュマ窒素定量法 ジュマ法ともいい,J.B.A.デュマによって創始された燃焼反応を利用するガス分析法。図に示すように,ニッケルボートに試料と粉末酸化銅を入れ,石英燃焼管系内を二酸化炭素CO2で完全に置き換えて加熱燃焼させ,生成する窒素酸化物を金属銅の層(550℃)で還元して窒素気体に変える。これを50%水酸化カリウム溶液を満たした窒素計(アゾトメーター)に捕集し容積を測定する。窒素体積を重量に換算して含有窒素の百分率を求める。
(2)ケルダール窒素定量法 キエルダール法ともいい,1883年ケルダールJohan Gustav Christoffer Kjeldahl(1849-1900)によって提案された湿式窒素定量法。医学,薬学,生化学の分野で利用され,血液,タンパク質,その他水溶液中のアミンの含有量の分析,またデュマ法の適用できない試料に適している。試料を濃硫酸とともに加熱,分解し,窒素を硫酸アンモニウムに変え,アルカリ性にして水蒸気蒸留するとアンモニアを遊離するから,濃度の定まった酸に吸収させた後,残存する酸を濃度の定まったアルカリで滴定し,アンモニア量を定量する。
執筆者:増田 昭三
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