笠印(読み)かさじるし

改訂新版 世界大百科事典 「笠印」の意味・わかりやすい解説

笠印 (かさじるし)

笠標,笠験,笠符,笠璽,笠注とも書く。戦時,敵・味方識別のために,各自がつけた合印,目印。笠(兜の鉢の後ろの鐶(かん)や前立てにつけることが多い)に挿頭した目印であるので,かさじるしと呼ぶとされるが,語源は明確ではない。鎧の袖につけた袖印も,腰につけた腰差しも,おしなべて識別のための目印を笠印と称する。古くは《吾妻鏡》文治5年(1189)7月8日の条に,下河辺行平が先祖藤原秀郷の故実と称して,源頼朝に調進した甲冑の兜の後ろに笠標の簡をつけており,袖につけるのが尋常ではないのかとの疑問を持たれている。少なくとも平安末期には行われていたと考えられる。一般には布帛を用いる。色は白,赤(薄紅,濃紅),まれには金襴,錦などが用いられたらしい。ほかに神の招代でもある松葉,笹葉,杉葉,梛(なぎ)葉,あるいは敵・味方同族同紋であったがために,臨時に馬の垢取(赤鳥),鷹の鈴,同じ布地直垂(ひたたれ)の右の袖を割いてつけた例もある。印の布地には,神仏の名号・呪文・真言などをも書くが,白布に大将家紋をすえるのが一般的である。大きさは一幅以下で,鎧の袖より小さいようであるが,中には,大笠標と称し,旗指物に類するものもある。以上は室町時代までの様相で,いわゆる軍記物類に記されており,確証となる遺品は現存しない。戦国時代になると,旗指物が笠印の用を兼ねるようになり,番指物,役印,母衣(ほろ)などの揃いの軍装・色彩に統一されて,笠印,袖印が行われなくなる。幕末維新の戦乱には,軍記物の研究による影響であろう,故実家の考証によって,笠印が再び採用され,洋式部隊の軽装の肩口・袖に印として小幡のようなものや,共通の陣笠の紋印に,錦旗を擁する官軍標識として,錦や緞子(どんす)の裂,いわゆる錦切れを付けた。これらは現存しているものもある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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