ナギ(読み)なぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナギ」の意味・わかりやすい解説

ナギ(常緑高木)
なぎ / 梛
[学] Nageia nagi (Thunb.) Kuntze
Podocarpus nagi (Thunb.) Zoll. et Moritz.

マキ科(分子系統に基づく分類:マキ科)の常緑高木。大きいものは高さ25メートル、径1.5メートルに達する。樹皮は紫褐色で滑らかであるが、外皮は大形で不規則な鱗片(りんぺん)状にはげ落ち、その跡は紅黄色となる。葉は革質で対生し、卵形から楕円(だえん)状披針(ひしん)形で、長さ4~6センチメートル、幅1.5~2.5センチメートル、広葉樹状で多数の平行脈があるが、中央脈はない。雌雄異株。5~6月、開花する。雄花穂は前年枝の葉腋(ようえき)につき、黄白色で円柱形。雌花は前年枝の葉腋に1個ずつ開く。果実は球形で径1~1.5センチメートル、10~11月、青白色に熟す。東京都式根(しきね)島、紀伊半島、山口県、四国から沖縄、および中国大陸南部、台湾の暖帯亜熱帯に分布する。名は、葉の形がミズアオイ科(APG分類:ミズアオイ科)のコナギに似るからといわれる。また、ミズアオイ科のミズアオイも古名でナギとよんでいた。庭園樹、並木、生け垣などに利用する。材は建築、器具、柩(ひつぎ)、彫刻などに用いる。

[林 弥栄 2018年5月21日]

文化史

古くから神社に植えられ、奈良の春日(かすが)大社では天然記念物のナギ林を形成し、大木は樹齢1000年を超す。ナギは熊野権現(くまのごんげん)の神木で、熊野神社では玉串(たまぐし)にナギを使い、供物はナギの葉にのせる。中世、熊野信者の熊野詣(もう)でにはナギの葉をかざして行ったことが、中世前期の戦記文学『保元(ほうげん)物語』に出る。ナギは凪(なぎ)に通じるとされ、葉が船の御守りにされた。また、女性が鏡の裏にナギの葉を入れる俗習は、男女間に波風がたたない、あるいはナギの葉が切れにくいため、縁が切れず、会いたい人の姿が鏡面に浮かぶとの俗信による。

[湯浅浩史 2018年5月21日]


ナギ(水草)
なぎ / 菜葱

ミズアオイ科(APG分類:ミズアオイ科)の水草ミズアオイの古名。葉を食用とするので、野菜としたネギという意味でつけられた。

[編集部 2019年6月18日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ナギ」の意味・わかりやすい解説

ナギ
Podocarpus nagi (Thunb.) Zoll.et Moritz.

別名チカラシバ。針葉樹としては珍しく広い葉をもつマキ科の常緑高木。高さ30m,直径1mに達し,幹の樹皮は紫褐色で,薄くはがれた跡が黄赤色を呈する。葉は十字対生するが,横枝では1節ごとに90度ずつねじれるので2列状となる。葉身は楕円状披針形で両端が細まり,長さ5~7cm,20~30本の平行脈がある。雌雄異株で,花は5月ごろ前年枝に腋生(えきせい)し,雄花は円柱形で2~3個ずつ束生,雌花は単生し,基部に数枚の鱗片がある。種子は10月ごろ熟し,藍青色の套被(とうひ)におおわれ,球形で径約15mm,同属のイヌマキのように花托が肥大しない。三重県南部または山口市の旧小郡町を北限とする太平洋側に点々と自生し,台湾や中国の中・南部に及ぶ。古くから熊野信仰と結びついて霊木として暖帯各地の神社に植えられたらしい。奈良春日神社の純林には樹齢1000年になる木もあるが,同じく植栽と考えられている。ナギが凪(なぎ)に通じ,しかも平行脈の葉が強靱で引っ張っても切れないところから,婦人が鏡の裏に収めて家庭の円満を願い,漁師も尊んだ。暖地では庭木や並木としても植える。皮付丸太は床柱に珍重され,樹皮のタンニンは皮のなめし剤や染料に,種子の油は神社の灯用に供された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナギ」の意味・わかりやすい解説

なぎ
calm

海陸風が交代するときの無風状態。陸風が吹きやんで海風が吹き出すまでの午前中に現れる無風状態を朝なぎ,海風と陸風が交代する夕方の無風状態を夕なぎという。なぎのときには海陸の温度差はなくなっている。夏季,海陸風の発達が著しいときのタなぎは非常な蒸し暑さを感じさせる。これは気温が上昇するためではなく,海風が急にやんで体感温度が高くなるためである。日本では瀬戸内海の夕なぎが有名。

ナギ(梛)
ナギ
Podocarpus nagi

マキ科の裸子植物。四国,九州の南部から沖縄,台湾にかけて分布する。また庭木として暖地に広く栽植される。高さ 20mにもなる常緑の高木で,年を経ると樹皮がはげ落ちる。針葉樹に属するが,対生する葉は扁平な楕円形で長さ3~8cm,緑色で先端はとがる。多数の平行脈が目立つ。雌雄異株で,雌には球形の肉質の種子を生じ,熟するとオリーブのような青紫色を帯びた緑色で,白い粉をかぶっている。イヌマキ,ラカンマキなどと同属の植物であるが,ナギでは花托が赤く肉質にふくらむようなことはない。一名チカラシバともいい,奈良の春日神社の社叢にある純林は有名で天然記念物になっている。

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百科事典マイペディア 「ナギ」の意味・わかりやすい解説

ナギ

マキ科の常緑高木。本州(近畿以西)〜沖縄,台湾などの暖地の山中に自生し,また庭にも植えられる。葉は一見針葉樹とは思われない形をなし,対生して広披針形で厚く光沢があり,脈は平行。雌雄異株。5〜6月開花。雄花穂は黄白色で円柱形,雌花は緑色で葉腋につく。果実は球形で10〜11月,白青色に熟す。材は緻密(ちみつ)で,家具などにする。

なぎ(凪)【なぎ】

風力0(風速毎秒0.0〜0.2m)の状態。海面は鏡のようで,煙は直上する。なぎは一般に夜間に起こりやすく,また海岸地方では海陸風の交替期にあたる朝(朝なぎ),夕(夕なぎ)に起こることが多い。

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世界大百科事典(旧版)内のナギの言及

【海岸気候】より

…海陸風が発達することも特色で,低緯度地方では年中,中緯度地方では暖候季を中心に昼間は海風が,夜間は陸風が吹く。この海風と陸風が交替するころに一時風がやみ,いわゆる〈なぎ〉の現象が生じ,むし暑く感ずる。海岸気候では潮風の影響や海霧の侵入する地域,台風の襲来をしばしば受ける地域などもある。…

※「ナギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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