ほろ【母衣・保侶・幌・縨】
- 〘 名詞 〙
- ① 軍陣で、背にかける大形の布帛。流れ矢を防ぎ、存在明示の標識にもした。平安時代の末から十幅一丈などの大形なものが出て装飾化し、室町時代の頃から風にふくらんだ形を示すために竹や鯨骨製の母衣串(ほろぐし)を入れるのが例となった。母衣衣(ほろぎぬ)。
- [初出の実例]「甲冑之士纏二数幅之布一 世俗号二之保呂一」(出典:本朝世紀‐久安三年(1147)七月二一日)
- ② 母衣蚊屋(ほろがや)に用いる布。
- [初出の実例]「ぬけたがる・母衣おふた児がやあとさん」(出典:雑俳・軽口頓作(1709))
- ③ 馬車または人力車などで、日よけ、雨よけに用いるおおい。
- [初出の実例]「倉茂某は、晴雨両方に用ひて空気の通ひもよき一種の帆呂(ホロ)を発明せし由」(出典:毎日新聞‐明治一九年(1886)一〇月一六日)
- ④ のれん。
- [初出の実例]「肆は軒をあらそひ、幌は風にひるがへり」(出典:俳諧・父の終焉日記(1801)五月一日)
- ⑤ 女性が丸髷を結うとき、髷を大きくするために髪の中に入れる張子。ほろの髷入れ。
- [初出の実例]「一番の母衣(ホロ)なんぞは、顔ほどもあったよ」(出典:滑稽本・四十八癖(1812‐18)三)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
Sponserd by 
母衣
ほろ
甲冑(かっちゅう)の背につけた幅の広い布で、風にはためかせたり、風をはらませるようにして、矢などを防ぐ具とした。五幅(いつの)(約1.5メートル)ないし三幅(みの)(約0.9メートル)程度の細長い布である。中世以降、色を染めたり、紋章をつけて旗幟(きし)のかわりともした。『三代実録』の貞観12年(870)の条にその名称があって甲冑の補助とするとあり、『本朝世紀』久安3年(1147)の条に、幅広い布を鎧武者(よろいむしゃ)がまとい、これを世人が「保侶(ほろ)」とよんだとし、また中世、『吾妻鏡(あづまかがみ)』の建仁3年(1203)の条に母衣の故実(こじつ)の記事がみえる。絵画としては『平治(へいじ)物語絵巻』(六波羅(ろくはら)合戦)や法隆寺の絵殿の太子絵伝に母衣着用の騎馬の甲冑姿がある。『保元(ほうげん)物語』『平家物語』『太平記』などに登場する華麗な戦衣でもある。近世に至って、神秘的な付会もされ、種々な故実も生じた。古くは十幅(約3メートル)で、1丈(約3メートル)などという大きなものがあったが、ほぼ1.5メートル四方程度となった。しかしとくに一定した寸法の定めはない。上辺と下辺に紐(ひも)をつけて背に結び、あるいは、竹籠(たけかご)を母衣串(ほろぐし)につけてこれを包み、背後の受け筒に挿したりして、一種の旗指物(はたさしもの)ともなった。別に背に負うた矢を包む母衣状の矢母衣(やぼろ)もある。
[齋藤愼一]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
Sponserd by 
世界大百科事典(旧版)内の母衣の言及
【保呂】より
…鎧(よろい)の背にかけて流れ矢を防ぎ,あるいは装飾にした袋状の布。〈母衣〉〈保侶〉とも書き,保呂衣(ほろぎぬ),懸保呂(かけぼろ),保呂指物(ほろさしもの),矢保呂の別がある。保呂衣は戦袍(せんぽう)であり,《三代実録》には870年(貞観12)に調布をもって保呂衣1000領を調製したことが伝えられている。…
※「母衣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
Sponserd by 