狂言の曲名。女狂言。大蔵,和泉両流にある。妻は,連歌に熱中して家に寄りつかない夫に愛想をつかし,離縁してくれという。夫は暇のしるしに妻が手慣れた箕を渡すと,それをかぶって妻は出て行く。その後ろ姿を見て夫が思わず〈いまだ見ぬ二十日の宵の三日月(箕被)は〉と発句を詠むと,妻は〈今宵ぞ出づる身(箕)こそ辛けれ〉と脇句を付ける。妻の見事な手並みに驚いた夫は,これからは家にいて夫婦で連歌を楽しもうと,家に呼び入れる。以上は大蔵流の筋立てだが,和泉流のは少し異なり,夫が連歌の会の頭(とう)に当たったことから,渡世の苦しいのにそれどころではないとはねつける妻といさかいになる。また,いさかいの中で唐の朱買臣(しゆばいしん)が貧乏も顧みず学問に励んで立身した故事を語る演技が挿入される。夫婦の詠みかわす連歌の句も異なり,夫〈三日月の出づるも惜しき名残かな〉,妻〈秋(飽き)の形見に暮(呉)れてゆく空〉となる。登場は夫と妻の2人で,夫がシテ。夫婦のいさかいを素材にした狂言,連歌を素材にした狂言は少なくないが,本曲は両者をうまく結びつけた佳作。懸詞を巧みに織りこんだ俳諧連歌は,夫婦の心情の機微をよく表現している。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。女狂言。連歌(れんが)好きの夫(シテ)が、明日は自分の家で連歌の会を催すのでその用意をするよう、妻に言いつける。妻は貧窮の身で連歌の会どころではないと聞き入れず、どうしても会を開くなら離縁してくれという。これを承知した夫は、離縁のしるしを要求されて何もないので箕(み)を与え、その箕を被(かず)いて出て行く後ろ姿を見て「いまだ見ぬ二十日の宵の三日月(箕被き)は」と発句を詠みかける。これを聞いた妻が「今宵(こよい)ぞ出(い)づる身(箕)こそつらけれ」とみごとに脇句(わきく)を付ける。すっかり感心した夫は、妻の気持ちを理解してわびを入れ、めでたく復縁する。この付け合いの句は大蔵(おおくら)流であるが、和泉(いずみ)流では「三日月(箕被き)の出(い)づるも惜しき名残(なごり)かな」「秋(飽き)の形見に暮れていく空」となる。夫婦物の狂言としては珍しく妻の性格がおとなしく、俳味の漂う情趣豊かな曲。
[林 和利]
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