昔話。継子(ままこ)が幸福な結婚をすることを主題にした継子話の一つ。継母が姉の継子には破れた袋を、妹の実子にはよい袋を持たせて栗(くり)拾いに行かせる。妹はすぐいっぱいになるが、姉のほうは破れているからなかなかいっぱいにならない。日が暮れ、山の中の一軒家に行く。人食鬼の家であるが、老婆がかくまってくれる。姉は老婆のシラミをとってやる。帰りに姉は老婆から宝箱をもらう。町の祭りの日、母親は妹を連れて祭りに出かける。姉にはたいへんな仕事を言いつけるが、旅の僧やスズメの援助で果たす。宝箱を開けると、中にきれいな着物が入っている。姉はそれを着て祭りに行く。姉はそこで見そめられ、幸せな結婚をする。前半の栗拾いは、独立した「継子の栗拾い」としても語られている。後半は典型的な「シンデレラ」の類話である。
日本では平安中期にすでに、継母に虐げられる継娘が結婚して幸福になることを主題にした物語文学が生まれている。『落窪(おちくぼ)物語』や『住吉(すみよし)物語』(現存するのは鎌倉時代の作品)がそれであり、室町時代の物語草子にも同材の作品が少なくない。『ふせやの物語』『美人くらべ』『秋月物語』『岩屋の草紙』などがある。昔話の細かい特徴との共通性はあまりないが、『花世の姫』は昔話に近く、山に捨てられた姫が、鬼の家で老婆に助けられ、虫をとった礼に姥皮(うばかわ)など不思議な宝物をもらうという「糠福米福」の前段部分がある。しかも、姥皮を着て老女になり、火たきとして住み込む「灰かづき姫」の要素もある。『鉢かづき姫』や『うばかは』もこの系統である。
類話は、朝鮮、中国、ベトナム、インドネシア、インドをはじめ、アジアからヨーロッパへかけて広く分布し、数も多い。ヨーロッパではシャルル・ペローの昔話集の「灰かぶり」以来、もっとも有名な昔話の一つである。中国には段成式(だんせいしき)(863没)の『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)続集』に「シンデレラ」の典型的な類話がみえている。これは中国広西省に住むチワン族の昔話の記録で、いまもよく似た話が伝わっている。継娘の靴を手に入れた人が靴を手掛りに娘を探し出すという趣向も共通している。この部分は日本ではあまり明確に説かれていないが、ヨーロッパでは印象的な要素になっている。「糠福米福」は継子と実子の名前で、東北、中部地方では、この系統の糠と米を一対にした名が多い。継子には糠の団子を、実子には米の団子を持たせたので、この名があるという伝えもある。
[小島瓔]
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