日本大百科全書(ニッポニカ) 「紀田順一郎」の意味・わかりやすい解説
紀田順一郎
きだじゅんいちろう
(1935― )
小説家、評論家。神奈川県横浜市生まれ。本名佐藤俊(たかし)。慶応義塾大学経済学部卒業。大学時代は推理小説研究会に所属し、ミステリー・マニア・サークルの老舗(しにせ)的存在である「SRの会」の機関紙『SRマンスリー』などで批評活動を行う。卒業後は商社勤務のかたわら、推理文芸誌『宝石』などを舞台に「密室論」(1961)ほか評論研究を本名で発表。6年間のサラリーマン生活に別れを告げたあと、1964年(昭和39)に近代史・書誌を主題とする評論家生活に入る。この分野の著書に『明治の理想』(1965)、『落書日本史』(1967)、『開国の精神』(1969)、『牢獄の思想』(1971)などの近代思想史・社会史や『現代人の読書』(1964)、『現代読書の技術』(1975)、『書斎生活術』(1984)といった読書論のほか、『日本の書物』(1976)、『世界の書物』(1977)のような名著案内も多い。希代の蒐集家にして読書家といえよう。近年は情報化社会における、知的生産のあり方を探る分野の研究・評論も手がけている。幻想小説、怪奇小説の紹介翻訳も多く、『ブラックウッド傑作集』(1972)、『M・R・ジェイムズ全集』(1973~75)を翻訳。また評論家中島河太郎(かわたろう)(1917―99)と『現代怪奇小説集』(1974)、『現代怪談集成』(1982)、荒俣宏と『世界幻想文学大系』(1975~86)を監修した。
1982年「本の探偵、何でも見つけます」という東京・神田の古書店主・須藤康平を主人公とする連作中編集『幻書辞典』を発表、ミステリー作家としてもデビュー。その後、同じ探偵役が登場する『われ巷(ちまた)にて殺されん』(1983、のち『夜の蔵書家』と改題)、セキュリティの専門家を探偵役に据え、コンピュータ社会の犯罪と暗部をえぐる『オンラインの黄昏』(1984)、古書店主の殺人事件に愛書家グループが巻き込まれる『鹿の幻影』(1989)、古書店の後継者争いを描いた『魔術的な急斜面』(1991)、幻の詩集の真贋疑惑と殺人事件を描く『第三閲覧室』(1999)など、意欲的に小説を発表している。97年(平成9)より著者の集大成となる『紀田順一郎著作集』の刊行が始まる。
[関口苑生]
『『現代読書の技術』(1975・柏書房)』▽『『書斎生活術』(1984・双葉社)』▽『『オンラインの黄昏』(1984・三一書房)』▽『『魔術的な急斜面』(1991・東京創元社)』▽『『落書日本史』(『紀田順一郎著作集』第2巻所収、1997・三一書房)』▽『『日本の書物』(『紀田順一郎著作集』第4巻所収、1998・三一書房)』▽『『世界の書物』(『紀田順一郎著作集』第5巻所収、1998・三一書房)』▽『『第三閲覧室』(1999・新潮社)』▽『『明治の理想』『開国の精神』(『紀田順一郎著作集』第1巻所収、2000・三一書房)』▽『『現代人の読書』(三一新書)』▽『『鹿の幻影』『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)』▽『中島河太郎・紀田順一郎編『現代怪奇小説集』(1974・立風書房)』▽『中島河太郎・紀田順一郎編『現代怪談集成』(1982・立風書房)』▽『紀田順一郎・荒俣宏責任編集『世界幻想文学大系』(1975~86・国書刊行会)』