翻訳家、評論家、小説家。東京・鴬谷生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。中学3年生のときに英文学者・翻訳家の平井呈一(1902―1976)が訳した怪奇小説を読んで感激し、平井に手紙を書いたことで知遇を得、やがて平井から欧米の幻想文学や、日本の神秘文学の案内を懇切丁寧に教えられ興味を覚える。大学に入学した年に、平井と対面。平井が永井荷風の弟子であったことから、荒俣は荷風の孫弟子であると自称する。大学在学中に友人と怪奇小説同人誌『リトル・ウィアード』を発行。
大学卒業後はコンピュータ・プログラマーとして10年間の会社勤務のかたわら、英米怪奇幻想文学の翻訳(団精二名義)・紹介者として活躍。紀田順一郎と共に雑誌『幻想と怪奇』(1973~1974)および『世界幻想文学大系』(1975~1986)を編纂・監修し、1977年(昭和52)には英米ファンタジーの主要作品紹介と、精神史的系譜を詳述した『別世界通信』を処女出版。これ以降、日本最初の総合的な海外幻想文学事典である『世界幻想作家事典』(1979)や、日本の古典幻想文学を斬新な視点から論じた『本朝幻想文学縁起』(1986)など幻想文学研究の分野に大きな業績を残す。ほかにも綺想(きそう)科学、オカルティズム、博物学、図像学など研究対象は多岐にわたり、その博覧強記ぶりは余人の及ぶところではなく、編著作は200冊以上にもなる。現在文庫でまとめられている「荒俣宏コレクション」は、その集大成といえよう。東京の知られざる異相を紹介する『異都発掘』(1987)の路上観察学を筆頭に、日本各地の妖異な場所を訪ね歩く『日本妖怪巡礼団』(1989)の妖怪学、地相によって吉兆を占う風水の驚異を実地探査する『風水先生』(1994)ほか怪物学、産業考古学、図鑑、読書日記……とありとあらゆるジャンルの研究成果が報告されている。
また帝都東京の大地霊平将門の怨霊を呼び覚ますことにより、東京に大崩壊をもたらそうとする魔人加藤保憲と、その陰謀を阻止せんとする人々との間の霊的闘争を描いたオカルト大河ロマン『帝都物語』(1985~1987)で第8回日本SF大賞を受賞。同書は一大ベストセラーとなり、映画化もされた。
[関口苑生]
『『世界幻想作家事典』(1979・国書刊行会)』▽『荒俣宏編『世界神秘学事典』(1981・平河出版社)』▽『『別世界通信』(ちくま文庫)』▽『『帝都物語』(角川文庫)』▽『『本朝幻想文学縁起』『異都発掘』『日本妖怪巡礼団』『風水先生』(集英社文庫)』▽『紀田順一郎・荒俣宏責任編集『世界幻想文学大系』(1975~1986・国書刊行会)』
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