矢野竜渓の政治小説。1883年(明治16)に前編,翌年後編刊行。前編ではテーバイの青年政治家が協力して専制的な奸党から民政を回復するまで,後編ではスパルタと争いギリシア全土を制圧するまでが描かれる。竜渓の属する改進党の民権思想を広めるために作られ,格調ある文体の魅力もあって愛読された。史実に依拠しながらも,前編では人物に創作の手を加えて性格描写に意を用い,後編では虚構の事件を挿入して過激な行動の批判と平和思想の鼓吹を行っている。思想的には民権論より国威の伸張に傾き,英雄豪傑と規定される主要人物は儒教倫理から脱していない。戯作小説から近代文学への過渡的段階に位置する小説。講談や演劇にもなった。
執筆者:小川 武敏
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矢野龍渓(りゅうけい)の長編小説。正しくは『斉武名士経国美談』。1883年(明治16)3月前編、翌84年2月後編、ともに報知社刊。龍渓は当時同社社長で、改進党の幹部。古代ギリシア史に題材を求め、テーベの英雄エパミノンダス、ペロピダスらがスパルタの強圧に抗して、自国の独立、民政の安定のために戦い、幾多の危難に陥ったが、よく国運を守りぬき、紀元前371年のレウクトラの戦いではスパルタ軍を大破し、ついにギリシア全土の覇権を握るまでを描く、歴史的政治小説。龍渓は、読者に正史と小説とを同時に読む喜びを与えようとくふうしたと語っている。エパミノンダスらの性格描写をはじめ全編『三国志』『八犬伝』などの手法を生かしている。
[岡 保生]
『「経国美談」(『日本現代文学全集3 政治小説集』所収・1965・講談社)』
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矢野竜渓(りゅうけい)の長編政治小説。正確には「(斉武名士)経国美談」。前編を1883年(明治16),後編を翌年報知新聞社から刊行。紀元前4世紀のギリシアのテーベが舞台。前編は巴比陀(ペロピダス)や威波能(イパミノンダス)などの名士たちが,奸党によるクーデタとその後の専制体制を倒し民主政治を回復するまでを,後編はテーベ軍が40万のスパルタ軍勢を破ってギリシア全体を解放する物語。民主政治回復と国権伸長を掲げる改進党系の代表的作品。
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…夢柳の代表作は,ロシアのテロリストを描いた《虚無党実伝記 鬼啾々(きしゆうしゆう)》(1884‐85)で,このころの群馬事件から秩父事件にいたる反政府闘争を背景に大きな反響を呼んだ。改進党系の政治小説でもっともすぐれた作品は,矢野竜渓の《斉武名士 経国美談》(1883‐84)である。古代ギリシアのテーベの勃興に素材を求めたこの作品は一種の歴史小説で,前編ではテーベにおける民主政治の回復,後編ではスパルタを打ち破って国威を発揚するまでの経緯が巧みな話術で語られている。…
※「経国美談」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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