改訂新版 世界大百科事典 「クーデタ」の意味・わかりやすい解説
クーデタ
coup d'État[フランス]
同一支配階級内部のある勢力が,みずからの勢力をより強化するために,また政権を獲得するために行う非合法的・武力的手段による奇襲を意味する。革命がある階級から他の階級への権力の移行であるのと異なる。歴史的な例としては,1799年に執政政府le Directoireを廃止するためにナポレオン1世が行った〈ブリュメール18日〉,1851年ナポレオン3世が議会に対して行った,いわゆる〈ルイ・ボナパルトのブリュメール18日〉が有名である。またイタリアのファシスト,ムッソリーニによる1922年10月29日のローマ進軍もクーデタの典型である。現代はラテン・アメリカおよびアフリカ諸国等で軍隊によるクーデタが頻発しているが,これは軍部以外に統治能力をもつ勢力が十分に育っていないことに一つの原因がある。そこでは,クーデタの首謀者がみずからの行動を〈革命〉と呼んだり,また近代西欧的意味でのブルジョアジーとプロレタリアートの階級分化が不完全であるため,しばしば武力による権力奪取が総じてクーデタと称されることもある。それゆえ,下(人民)からの変革を革命と呼び,上(権力者)からの変革をクーデタというという定義づけも十分意味をなさないことがある。いずれにしても,クーデタについて考察する際に注意すべきことは,第1にその担い手としての軍隊の役割が決定的であること,第2にクーデタの首謀者が人民の代表を標榜することである。後者は,奪取した権力の基盤を固め,その合法性を担保するための行為であるが,ナポレオン1世および3世はともにプレビシット(人民投票)という方法を用いたし(ボナパルティズム),また現代の第三世界におけるクーデタがしばしば〈人民革命〉のスローガンを掲げるのはその好例である。権力の合法性の基盤が不安定であるほど,さらなるクーデタの可能性が高まることはいうまでもない。
→軍事政権
執筆者:舛添 要一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報