改訂新版 世界大百科事典 「経常移転資本移転」の意味・わかりやすい解説
経常移転・資本移転 (けいじょういてんしほんいてん)
current transfer, capital transfer
ある経済主体から他の経済主体へ購買力が移動することのうち,(1)財・サービスおよび被雇用の労働の代価として購買力が移動する場合,および(2)金融請求権の移動の反対給付として購買力が移動する場合を除いた場合を移転という。移転は,関連する購買力の移動が経常勘定(生産勘定と処分勘定)にかかわるか,それとも蓄積勘定にかかわるかによって,それぞれ経常移転および資本移転という。換言すれば,蓄積活動を調達する資金源泉となることが予定される移転,もしくは所得ではなく富を原資とする移転が資本移転である。
移転には次の項目が含まれる。(1)間接税,すなわち,財・サービスの生産,販売,使用に関して〈生産者〉に査定される租税で,生産者が生産経費の中に繰り入れるもの。(2)補助金,すなわち政府によって,民間の産業,公的な法人企業に対して与えられる経常勘定にかかわるすべての交付金,および政府企業に対する交付金で,明らかに政府の政策の結果によって価格を生産費用以下に維持するために発生する営業損失に対する補償を含む。(3)企業所得(〈国民所得〉の項参照)。(4)財産所得(同上)。(5)損害保険や契約不履行に関連した取引のような,契約に基づく支払と受取り。この取引には損害保険の純保険料の支払と受取り,損害保険金の支払と受取りが含まれる。ここで,損害保険の純保険料とは,保険料から損害保険の帰属サービス料(受取保険料と支払保険金の差額)を差し引いた大きさをいう。(6)政府機関に対する支払義務または政府機関からの支払約束。すなわち,経常移転としては,直接税,強制的手数料・科料・罰金,社会保障拠出金,社会扶助金,その他政府によってなされる経常移転。また資本移転としては,公的機関が企業,民間非営利団体に対して行う投資援助と災害関連支出,公的機関が家計に対して行う災害関連支出,公的機関が他の制度別経済主体から徴収する反復性のない資本課税(たとえば家計が支払う相続税,財産税など)および財産の没収,政府機関相互の固定資本形成を調達するための交付金,資本財の一方的な移転,貿易赤字を補塡(ほてん)するための政府間供与および賠償が含まれる。(7)その他の反対給付を伴わない自発的な贈与。すなわち,経常移転としては,労働組合費,宗教団体,政治団体への寄付金などの対家計民間非営利機関への経常移転,年金,家族手当,退職手当,一時帰休手当,生産休暇手当などについて,特定の基金を設定せずに,また民間の年金・保険制度によることなしに雇用主が被(雇)用者に直接支払う給付および(帰属)拠出金,貸倒金,移民の送金,家計間の経常的な性格の現金授与,居住者・非居住者間の現物贈与など居住者主体によってなされる他に分類されない経常移転の受取りと支払。また,資本移転としては,法人と家計が民間非営利団体に対して行う固定資本形成向けの助成金の供与,および長期支出のため基本財産を設立したり増加させたりするための助成金の供与,家計の間の遺産その他資本的な性格をもつ贈与のやりとり,移民の金融資産・事業資産の移転が含まれる。
→国民経済計算
執筆者:倉林 義正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報