経絡治療(読み)けいらくちりょう

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

経絡治療
けいらくちりょう

鍼灸(しんきゅう)治療のうち、古典的立場をとる人々の主張・実践をいう。鍼灸治療は、明治以降、西欧文明の波に押され、民間療法の一つとして細々と残されるという状況であった。こうした状況は第二次世界大戦まで続くわけであるが、この間にあっても、民間療法としてではなく、職業として鍼灸を施術していた人々がわずかながら存在していた。秘伝・口伝の門外不出の療法を用いるこれらの人々には、多くの患者が集まった。しかし、これらは経験的に効果のある療法ではあったが、その多くは対症療法の域を出ていなかった。つまり、伝統的な中国医学としての鍼灸治療ではなく、多分に日本的なものであったといえる。
 やがて昭和の初期、柳谷素霊(やなぎやそれい)は、中国において長い歴史をもち続けた鍼灸治療の古医経である『素問(そもん)』と『霊枢(れいすう)』に着目し、これを研究・継承するという試みを始めた。その後、柳谷のもとには井上恵理(けいり)、岡部素道、竹山晋一郎(しんいちろう)らが集まり、鍼灸治療のあるべき姿、つまり、伝統的な経絡観、生理観、病理観、そして診断法、治方(ちほう)(治療法)の再構築を進めていった。彼らはこれを「経絡的治療法」と名づけ、当時の漢方復興運動の気運にあわせて、啓蒙(けいもう)運動として広げていった。これが「経絡治療」であり、「古典派」ともよばれた。
 経絡治療の大略は次のとおりである。
(1)鍼灸治療における疾病は、全身に巡っている12経絡の気血の変動であるとし、四診(ししん)法(望診、聞診、問診、切診(せっしん))により経絡の変動を虚と実としてとらえ、これを手技・手法で対応する(補瀉(ほしゃ)するという)ことで治方が成立する。虚とは内因(病因)により、また大病後に精気・体力が虚乏した状態であり、実とは病毒が体内にあっても、それと拮抗(きっこう)する精気、体力が充実している状態をいう。
(2)四診法のなかでは、切診に属する脈診法が重要とされ、臓腑(ぞうふ)経絡の虚・実は、最終的には寸関尺診(六部定位脈診法)で決定する。
(3)病因としては外因(風寒=風と寒さなど)と内因(七情=七つの感情)を設定し、病因によって症状を分別する(病証学)。
(4)治方は証(しょう)(診断の結果から得られた病態像)に従って施される。
 経絡治療の主張は、基本的には伝統的な中国医学の本質を継承して現在に至っているが、第二次大戦による中断と、柳谷、井上、竹山、岡部らの死によって、原典に沿った基本理念の整理は終息に向かったといえる。また、日中国交回復後の中国医学の進出は、古典派としての独自性を薄めつつある。現在は「日本経絡学会」と、その機関誌『経絡治療』をもち、その活動を続けている。[井上雅文]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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