家庭医学館 の解説
ろうかにともなうほるもんたいしゃのびょうき【老化にともなうホルモン、代謝の病気】
年をとってくると、血液中の値が若いころとは変わってくるホルモンがあります。その理由は、①ホルモンがつくられたり、分泌(ぶんぴつ)されたりする量が変わるため、②そのホルモンが作用する臓器の反応が変化するため、③ホルモンを受け入れる受容体(じゅようたい)の数や感受性が変化するため、④ホルモンを受け入れた後の細胞の情報伝達系の感受性が変化するため、などさまざまです。
また、あるホルモンの値が変化すると、それを補うためにほかのホルモンの値が変動することもあります。たとえば、加齢(かれい)にともなって、女性では、卵巣(らんそう)内にある卵胞細胞(らんぽうさいぼう)や黄体(おうたい)から分泌されるエストロゲンなどの女性ホルモンが、更年期(こうねんき)以降は減少します。また、同様に男性では、精巣(せいそう)(睾丸(こうがん))から分泌される男性ホルモンであるテストステロンが減少します。
しかし、これら性ホルモンの分泌を支配する脳下垂体(のうかすいたい)から分泌される性腺刺激(せいせんしげき)ホルモンであるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)は、逆に増加してきます。
このように、末梢(まっしょう)のホルモンが減少すると、それを支配する高位のホルモンの分泌が高まり、逆に、末梢ホルモンが増加すると、上位ホルモンの分泌が低下することにより、血液中の末梢ホルモン濃度を常に一定に保持しようとする調節機能が人体には備わっています。これをネガティブフィードバック分泌調節機構(Negative Feedback Inhibition)と呼んでいます。高齢になっても、このホルモン分泌制御メカニズムは正常に作動しています。
脳下垂体前葉(のうかすいたいぜんよう)と甲状腺(こうじょうせん)、副腎(ふくじん)、性腺(卵巣および精巣)との間はそれぞれ別個の下垂体ホルモンにより調節されています。血糖とそれを調節する膵臓(すいぞう)から分泌されるインスリンとの間や、血中カルシウムレベルとそれを調節する副甲状腺(ふくこうじょうせん)ホルモンとの間にも、同様の制御機構が作動しています。
副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンのような生命の維持に重要なホルモンの分泌は、加齢による変化はほとんどありません。
以下に、おもなホルモンの値の変動と、その影響について述べます。
●トリヨードサイロニン値低下の影響
軽いトリヨードサイロニン(T3)の低下は、ほとんど影響がありませんが、お年寄りに甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)や甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)がおこると、若い人とは症状が異なることがあります。
甲状腺機能亢進症は、発汗、動悸(どうき)、やせなどが代表的な症状ですが、お年寄りの場合は、心房細動(しんぼうさいどう)や心不全(しんふぜん)などの循環器の症状が前面に出ることがあります。
甲状腺機能低下症は、寒がり、しわがれ声、疲れやすい、脱毛、皮膚の乾燥、息切れなどが代表的な症状ですが、お年寄りは、ぼけが始まったようにみえるだけのこともあります。
●性ホルモン低下の影響
女性は、閉経(へいけい)とともにエストロゲンとプロゲステロンの分泌が低下しますが、これらは、リポたんぱくやコレステロールの代謝(たいしゃ)にもかかわっているので、値が低下すると、動脈硬化(どうみゃくこうか)が発症しやすくなると考えられています。
男性の多くは、テストステロンの分泌が低下しますが、性欲の減退は、テストステロンの分泌低下が原因ではなく、血管や神経の障害がより深くかかわっていることがわかっています。
なお、従来、単なる加齢現象と考えられていた筋肉量と筋力の低下は、テストステロンと成長ホルモンの減少が関係していることがわかってきました。
●インスリン値上昇の影響
年をとると、インスリンを受け入れる細胞の受容体の感受性が低下し、血液中にインスリンが多く残る高(こう)インスリン血症(けっしょう)になることがあります。
すると、糖尿病になりやすい傾向のほかに、動脈硬化がおこりやすく、高血圧の傾向にもなってきます。
◎お年寄りと代謝
糖質、脂質(ししつ)、たんぱく質のいずれをも代謝する力が衰えてきます。
●糖質代謝の衰えと影響
糖質代謝の主役はインスリンですが、年をとると、インスリンを受け入れる細胞の窓口である受容体の感受性が低下して、インスリンの利用度が悪くなります。また、受容体の数も減ります。
この結果、血液中に糖(ぶどう糖)がだぶつくようになり、糖尿病がおこりやすくなります。
●脂質代謝の衰えと影響
お年寄りでは、血液中のコレステロールと中性脂肪の値が高すぎる高脂血症(こうしけっしょう)といわれる状態になる人が増えてきます。
とくに、食事などの生活習慣が誘因となっておこる家族性複合型高脂血症(かぞくせいふくごうがたこうしけっしょう)や、多遺伝子性(たいでんしせい)コレステロール血症(けっしょう)といわれる高脂血症がおこりやすくなります。
危険なのは、コレステロールの値の高い高脂血症で、動脈硬化が進行し、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中(のうそっちゅう)が発症しやすくなります。
●たんぱく質代謝の衰えと影響
血清(けっせい)たんぱくは、100個以上のたんぱく成分の集団で、血液中でもっとも多い化学物質であり、大きくアルブミンとグロブリンとに分けられます。
アルブミンは、血管内膠質浸透圧(けっかんないこうしつしんとうあつ)やpHを維持したり、甲状腺(こうじょうせん)ホルモンや副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンおよびさまざまな化学物質と結合して、それらをからだの各部に運ぶ役目をしています。
また、免疫力(めんえきりょく)とも関係し、さらに、からだ全体の栄養状態を表わすもっともよい指標ともなっています。
血清アルブミン値が低下すると、からだがむくんできたり、抗生物質を使っても肺炎や褥瘡(じょくそう)(とこずれ)が治りにくくなってきます。
一方、グロブリンは、凝固系(ぎょうこけい)たんぱくや各種免疫グロブリンなどからなり、生体の防御免疫機構に大事な役割を担っています。炎症をおこすと増えてくる物質も、グロブリンの一種です。
個人差はありますが、加齢とともに、アルブミンは減少傾向を示し、グロブリンはやや増加のみられることがあり、全体として、血清総たんぱくは低下する傾向がみられます。