男性における性ホルモンで,広く動物をも含めて一般的にいう場合には雄性ホルモンとよぶ。アンドロゲンandrogenともいう。男性の二次性徴の発達に作用を現すホルモンで,主として精巣(睾丸)から分泌されるが,一部は副腎皮質と女性の卵巣からも分泌される。成人男性では1日2.5~11mg,女性では副腎から約0.5mg分泌される。
精巣から何か特殊な物質が血中に出ると考えられるようになったのは,1849年にバーソールドA.A.Bertholdが去勢した雄鶏に精巣を移植すると,萎縮したとさかや鳴声などがもとの状態に戻ることを見いだしたときからである。その後1931年ブテナントA.F.J.Butenandtが男性尿から活性物質アンドロステロンを結晶として取り出すことに成功したが,この物質はホルモンの代謝産物であることがその後の研究で立証され,精巣から分泌される真の男性ホルモンであるテストステロンが結晶として分離されたのはラクールLaqueurらの研究(1935)によってであり,同年,ルジカLeopold Ruzičkaらによって合成も行われた。
精巣からの男性ホルモンの分泌は脳下垂体前葉の性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の支配を受けており,思春期に入ると精巣での男性ホルモンの生合成と分泌が急激に高まる。その作用は男性の思春期にみられる変化から明らかなように,二次性徴の発達をもたらす。すなわち外性器や性腺付属器の発達のほかに,性毛の発生を促進し,骨や筋肉を増強して,いわゆる〈男らしさ〉を目立たさせる。男性ホルモンが女性で分泌しすぎると,音声の低下,皮下脂肪の減少,月経異常などをひき起こすほか不妊になる。なお副腎皮質から分泌される男性ホルモンはデヒドロエピアンドロステロン,アンドロステンジオンなどで,これらは副腎性アンドロゲンといわれ,その分泌は脳下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモンACTHによって支配されている。副腎性アンドロゲンの男性ホルモンとしての生物活性は,精巣から分泌されるテストステロンに比べると弱い。
天然のホルモンであるテストステロンは体内で代謝されやすく,そのため活性の低下も早いので,医療用としては合成ホルモンである17α-メチルテストステロン(経口投与)やプロピオン酸テストステロン(注射)の形で用いられる。
適応は,男子性腺機能不全,造精機能障害,および進行した女性性器癌による疼痛の緩和,手術不能の乳癌などである。また機能性子宮出血,更年期の自律神経失調にも効果を現す。
執筆者:大森 義仁+関原 久彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
基準値
男性:2.5~10.5ng/mℓ
女性:0.9ng/mℓ以下
第二次性徴の不全、男性機能低下などをチェック
男性ホルモンのテストステロンは睾丸から分泌されるホルモンで、男性の第二次性徴の発現、生殖機能維持、蛋白同化作用促進などの役割を果たしています。
女性にもわずかに存在し、生後から思春期までは低値で、思春期に成人レベルに達したのち、閉経後には若干、低下する変動を示します。
このホルモンは男性の場合、第二次性徴の不全や、成人での男性機能低下などを調べるとき測定します。
検査値からの対策
テストステロンは日内変動が大きいため、午前中の一定時間の安静にした状態で、複数回検査を繰り返すか、あるいは同じ日に時間をずらして数回測定して、これらの平均値を総合的に判定します。
疑われるおもな病気などは
◆男性:高値→レイディッヒ細胞腫瘍、性早熟症
低値→先天性無精子症、クラインフェルター症候群、停留睾丸
◆女性:高値→男性化卵巣腫瘍、多
低値→間脳下垂体機能低下症、LH単独欠損症
医師が使う一般用語
「テストステロン」
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
アンドロゲン(androgen)ともいう.男性および雄性動物の精巣より分泌され,生殖器官の機能調節,発育維持,第二次性徴の発現をつかさどるホルモン.睾丸の間質細胞から分泌される.男性ホルモン作用を有するステロイドは多数知られているが,睾丸から分泌される真の男性ホルモンはテストステロンのみとされている.男性ホルモンの製造原料として,初期では,動物睾丸のエキスや男子尿が使用されたが,コレステロール,ジオスゲニン,ヘコゲニンなどから部分合成されたテストステロンおよびその誘導体が用いられている.男性ホルモン作用としては,前立腺,精嚢腺といった副性器の発育,陰茎,陰嚢などの外性器の発育,ひげ,体毛,声帯などの発育,精子形成,性欲亢進,女性性器に対しては,黄体ホルモン作用,卵胞ホルモン作用,抗卵胞ホルモン作用などが認められる.臨床では男子性機能発育不全,男子不妊症,老人虚弱,乳がん,月経困難症,機能性出血,更年期障害,未熟早産児の発育促進などに用いられる.[別用語参照]アナボリックステロイド
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 抜け毛・薄毛対策サイト「ふさふさネット」毛髪用語集について 情報
…したがって,性分化の各段階がそのまま進めば基本型の女性となるが,各段階に男性化の〈力〉が加わると基本型からそれて男性になるという原理になっているのである。 ヒトでは,男性化の第1の力はY染色体であり,第2の力はY染色体の誘導のもとに発生した睾丸(こうがん)から分泌される男性ホルモンである。そしてほとんどの男性化作用をとりしきるのは男性ホルモンであるといって過言ではない。…
…発生初期には性腺の分化にも関係する。性ホルモンは雄性ホルモンまたは男性ホルモンと雌性ホルモンまたは女性ホルモンに二大別されるが,いずれもステロイドホルモンである。近年,生体内には存在しないが,性ホルモンと同じ作用をもつ合成物質がいくつも作り出されており,これらを含めた総称として性ホルモン物質sexogenという言葉が用いられる。…
※「男性ホルモン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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