老化にともなう消化器の病気と症状(読み)ろうかにともなうしょうかきのびょうきとしょうじょう

家庭医学館 の解説

ろうかにともなうしょうかきのびょうきとしょうじょう【老化にともなう消化器の病気と症状】

◎はっきりと現われない症状
 お年寄りだけに生じる消化器の病気というのはありません。しかし、お年寄りは、老化にともない、神経系や各器官などの機能も低下し、血管を含む内臓の組織も弾力性を失ってきます。したがって、同じ病気でも、お年寄りと若い人とでは、症状や経過が異なることはよくあります。
 一般にお年寄りの場合は、消化器の病気があっても、その病気の特徴的な症状がはっきりと現われることがきわめて少ないことがしばしば見受けられます。したがって、現われた症状だけで判断することは危険です。家族など周囲の人は、常にお年寄りの全身状態に気を配り、健康管理をしてあげることがたいせつです。
 とくに、かかりつけの医師(ホームドクター)に健康管理をしてもらったり、定期的に健康診断を受けたり、また体調がいつもとちがうと気づいたら早めに受診することを心がけてください。
 また、お年寄りは、生活習慣病などで、数種類の薬を常に服用していることが珍しくありません。そのため、薬の副作用による胃腸障害がときにみられます。受診の際には、服用している薬の内容を必ず医師に伝えてください。
◎がんが原因であることも
 お年寄りに消化器症状がみられた場合、考えなければいけない病気としてがんがあります。がんの診断・治療は日進月歩で、最近では開腹手術(かいふくしゅじゅつ)を行なわずに、内視鏡(ないしきょう)や腹腔鏡(ふくくうきょう)を使う手術法が開発され、侵襲(しんしゅう)(手術によるからだへの負担)が少なく、安全な治療を受けられるようになってきました。
 種類や程度にもよりますが、がんといっても、以前ほどつらい治療を強いられることがなくなりつつあります。
■胃潰瘍(いかいよう)
■胃もたれ
■便秘(べんぴ)
■痔(じ)
■肝硬変(かんこうへん)
■肝不全(かんふぜん)
■胆石(たんせき)
■胆道炎(たんどうえん)
■黄疸(おうだん)

■胃潰瘍(いかいよう)
 お年寄りは、胃粘膜(いねんまく)が萎縮(いしゅく)しており、また血管が動脈硬化(どうみゃくこうか)をおこして血液の循環状態が悪くなっていることが多いため、潰瘍ができやすいという特徴があります。
 また、らせん形をしたヘリコバクター・ピロリ(Hp)菌は、お年寄りほど血中のHp抗体(こうたい)が陽性を示すこと(つまり感染していること)が多く、胃内にすみついて、胃炎および胃潰瘍の原因の1つとなっています。最近では、この菌が胃がんの発生にも関係していることがわかってきました。
 さらに、お年寄りの潰瘍は、若い人と異なり、胃の上半分に好発し、かつ大きく深いため、出血しやすい特徴もあります。場合によって、大量の吐血(とけつ)または下血(げけつ)をしても、腹痛は軽い場合があるため、注意が必要です。
 とくに、脳梗塞(のうこうそく)の予防や関節炎のために消炎鎮痛薬を長期間服用しているお年寄りは、胃にたくさんできた潰瘍から吐血・下血することがあります。消炎鎮痛薬を服用する際には、必ず胃薬も服用するようにしましょう。

■胃もたれ
 お年寄りの症状のなかで、もっとも訴えの多い不定愁訴(ふていしゅうそ)(時間や程度の定まらない不快感や苦痛)の1つです。原因としては、消化管疾患、肝胆膵疾患(かんたんすいしっかん)、感染症(かんせんしょう)、心肺腎疾患(しんはいじんしっかん)、代謝疾患(たいしゃしっかん)、精神疾患、薬剤の副作用など数多くのものがあります。また、お年寄りには胃下垂(いかすい)や寝たきりの人が多いのですが、そのような人は胃腸の運動機能が低下しており、とくに慢性胃炎(まんせいいえん)があると胃もたれを感じます。
 胃もたれは消化管のがんなど、重大な疾患が原因であることもあります。症状が続くときには必ず受診し、胃の検査を受けるようにしましょう。

■便秘(べんぴ)
 お年寄りは腸管運動力が低下していることが珍しくなく、そのためにしばしば常習性便秘がみられます。とくに、寝たきりなど、運動不足になると必ずおこります。また、抗コリン薬、抗うつ薬などの内服剤による便秘もよくあります。
 慢性便秘はしばしば放置されがちですが、便秘や便が細くなるのは大腸下部のがんが原因の場合もあります。便の出方や色がいつもとちがう場合は、検便および大腸の詳しい検査が必要です。このように、便秘では原因をよく調べ、必要なら治療することがたいせつです。

■痔(じ)
 お年寄りのなかには、便秘や脱肛(だっこう)にともない、痔に悩んでいる人が多くみられます。痔は年齢とともに増加し、高齢者の70~80%以上の人にみられるという統計もあります。
 内痔核(ないじかく)ができた場合、出血しても痛みがありません。そのため放置されがちですが、直腸のがんやポリープからの出血を、内痔核からの出血と誤って放置してしまわないよう、出血が続く場合は必ず検査を受けましょう。
 肝硬変(かんこうへん)のお年寄りには、合併症である門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう)に起因した痔がみられることもあります。原病の肝硬変の治療が必要です。

■肝硬変(かんこうへん)
 典型的な肝硬変症状がみられる場合もありますが、自覚症状や他覚症状がほとんどないこともしばしばあり、健康診断でたまたま見つかることがあります。
 原因としては、肝炎ウイルスや飲酒によるものが多くみられます。C型肝炎ウイルスによる肝硬変では、肝がんの発生が問題になります。飲酒は肝炎ウイルスによる発がんを促進するため、断酒をしなければなりません。
 原発性胆汁性肝硬変(げんぱつせいたんじゅうせいかんこうへん)、心不全(しんふぜん)からくるうっ血性肝硬変(けつせいかんこうへん)もまれにあります。この診断のために、侵襲(しんしゅう)(からだへの負担)の少ない血液検査やCT、超音波による腹部画像検査が行なわれます。

■肝不全(かんふぜん)
 年齢とともに肝臓は萎縮(いしゅく)します。また、心臓のはたらきの低下と血管の動脈硬化(どうみゃくこうか)によって、肝臓の血液循環状態も悪化します。しかし、肝臓は予備力が大きいため、単に年をとっただけで肝障害や肝不全がおこることはなく、その機能は正常に保たれます。
 しかし、いったんお年寄りが肝不全をおこすと、その原因によらず、若い人に比べて予後(術後や治療後の経過)は不良となります。年齢が高いほど病気の進行が早く、致命率は高くなります。
 肝炎や肝硬変のあるお年寄りが、大量の飲酒、薬剤、ウイルス肝炎(重感染)のいずれかを契機に、急性肝不全をおこすことがあります。そのため、慢性肝障害のある人は、大量の飲酒を控えなければいけません。

■胆石(たんせき)
 お年寄りには約20%という高率で胆石がみられますが、若い人の胆石とは異なり、ビリルビンカルシウムでできた石のことが多いものです。ところが最近は、若い人に多いコレステロール系の胆石も増えています。
 部位は、若い人に比べて胆管(たんかん)にできる胆管結石(たんかんけっせき)の割合が多く、胆石発作(たんせきほっさ)で重症化しやすい特徴があります。胆嚢(たんのう)にできる胆嚢結石の場合は、胆嚢がんを併発することがあります。
 お年寄りの胆石発作は、腹部の激痛などの典型症状がほとんどみられず、また、自覚症状や他覚症状が少ないにもかかわらず重症化することがあるという特徴があります。そのため定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
 超音波検査によって胆嚢結石はほぼ100%見つかります。胆管結石の診断のためには、さらにCT検査、胆管造影検査が行なわれます。
 無症状の胆嚢結石の場合は、年1~2回の超音波検査で経過をみてよいでしょう。

■胆道炎(たんどうえん)
 お年寄りは胆石保有率が高いことに合わせ、胆嚢炎、胆管炎などの胆道感染症も多くみられます。典型的症状がでそろうことが少ないのにくわえ、症状が軽微でも急激に重篤化(じゅうとくか)し、胆嚢の壊疽(えそ)、穿孔(せんこう)、さらに腹膜炎(ふくまくえん)をおこし、緊急手術が必要になることが少なくないという厄介(やっかい)なものです。そのため、初期症状が軽くても、早いうちに受診することが肝要です。
 また、胆嚢がんや胆管がんが炎症に関係していることもあるため、その詳しい検査も必要になります。

■黄疸(おうだん)
 お年寄りは、若い人に比べ、胆道疾患による閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)が多く、肝疾患と胆道疾患による黄疸がほぼ同率にみられます。さらに、肝臓がんや胆道がんによる黄疸も高頻度でみられることや、うっ血性心不全、敗血症(はいけつしょう)など、別の臓器の疾患が原因の黄疸が多いのも特徴です。
 いずれも、黄疸のわりには自覚症状が軽いことがよくみられるため、注意が必要です。
 高齢になると開腹手術が困難になるため、拡張した胆管にからだの外から細い管を挿入し、黄疸の原因となる貯留した胆汁(たんじゅう)を体外へ排出する治療や、侵襲(しんしゅう)の少ない腹腔鏡(ふくくうきょう)や内視鏡(ないしきょう)を使った手術が行なわれます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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