とくに病気や異常があるとは思っていない者に対し、健康状態や、気づかずにいる疾病の有無を調べるために行う診察や検査をいう。健康を維持するためには、疾病・異常を早期に発見し、早期に治療することが必要であり、自覚症状や他覚症状が出てからでは手遅れになるおそれもあるので、定期的に健康診断を受けることが勧められる。このため、自発的に医療機関を訪れて受ける個人的なもののほかに、国民全体の健康維持のために行政的に行われるものがあり、定期健康診断などとよばれている。行政的に実施を義務づけたり、あるいはサービスとして実施している健康診断は、次に示すようにさまざまである。
[平山宗宏]
住民を対象として行政が保健サービスとして行っている健康診断としては、母子保健法による妊婦や乳幼児の健康診査(健康診断と保健指導を組み合わせた形式)がある。同法では1歳6か月健診と3歳児健診を健診内容を含めて定め、妊婦とほかの月年齢の乳幼児健診を市町村長の努力義務としており、複数回の妊婦健診や乳幼児健診が全国的に行われている。
また、2008年(平成20)4月からは、高齢者の医療の確保に関する法律と健康増進法の連携のもとに都道府県健康増進計画が策定され、医療保険者に特定健康診査、特定保健指導の実施が義務づけられた。これは生活習慣病予防、とくにメタボリック症候群に着目した健診および保健指導を40歳以上75歳未満の被保険者と被扶養者を対象に行うもので、その実施と評価のためのデータ分析までを行うこととなっている。それまでの老人保健法は廃止された。
学校では、学校保健安全法によって児童生徒、学生、職員の健康診断(就学前、定期、臨時など)が定められている。
このほか、自治体が独自に予算を計上して対人保健サービスとして実施する癌(がん)検診などもある。また、個人が自発的に医療機関を訪れる健康診断で、短期間の入院をして総合的な検査を行うものは、人間ドックなどとよばれている。
衛生上問題の起こりうる職場の従業員は、労働基準法によって年2回以上の健康診断が必要とされており、客に接触したり食品を扱う業種の業者は、感染症等に関する健康診断を受けなければならないことが、それぞれの業法に定められている。
なお、健康診断には、定期的に行われる一般健康診断のほかに、とくに有害な物質を扱う業務に従事する労働者を対象にする特殊健康診断がある。労働安全衛生法により法的に義務づけられる特殊健康診断の対象は、有機溶剤業務、鉛業務、四アルキル鉛業務、特定化学物質などの製造・取扱い業務、高気圧作業、電離放射線業務、粉じん作業に従事する労働者である。その他、行政指導により特殊健康診断の実施を要する対象として、強烈な紫外線・赤外線・騒音下での業務、深夜業務、VDT(visual or video display terminalsの略、コンピュータなどの表示装置をさす)業務、種々の有害化学物質を扱う業務などに従事する労働者がある。また、都道府県労働基準局長が労働者の健康のために必要と判断した場合に、事業所に指示して行わせる臨時健康診断がある。
[平山宗宏]
健康診断の検査項目は対象と主目的によって異なるが、小児の場合は、内科的な診察のほか身体計測(身長、体重など)、視力・聴力の簡易検査、歯科診察、運動機能等の発達検査、それに貧血検査、尿検査、心電図検査などが行われる。成人では、血圧、血液化学、肺・胃のX線検査、尿検査、便の潜血反応検査などが重要になってくる。また、これらの実施の方式としては、医療機関や検査センターなどを個人別に訪れる個別健康診断と、指定された会場へ日時を決めて多人数を呼び集めて行う集団検診とがある。
以上のような健康診断・検査の結果、さらに精密な診察・検査や治療を要することになれば、専門医療機関等への紹介が行われ、今後の生活上の注意などが必要であれば、医師、保健師、栄養士、心理相談員等によって保健指導、健康相談が行われる。また、一定期間後に再度診察や検査が必要と判断された場合には、継続観察などが行われる。これらは総称して健康診断・健康診査の事後措置といい、その成否は健康診断そのものの評価となるものである。
[平山宗宏]
『西崎統監修『健康診断 気になる数値の見方』(1999・主婦と生活社)』▽『安藤幸夫ほか著『病院の検査がわかる検査の手引き』新装改訂版(2001・小学館)』▽『吉田和弘著『健康診断の「正しい」読み方』(2002・平凡社)』
集団の中から一定の健康障害(傷病または機能障害)をもった人々をできるだけ早期により分ける操作(このような操作をスクリーニングscreeningという)をすること。個人を対象にして行うこともあるが,この場合も通常,多くは集団の場合と同じく〈健康〉な人が対象となる。かつてはこのような個人の健康診断と集団のそれとを区別して,後者を集団検診mass examinationとよんだが,現在では健康診断といえば集団検診をさし,同義に用いられることが多い。
健康診断の対象となる集団には,社会集団(R.M.マッキーバーのいうアソシエーションassociation)の場合と,非社会的な集団(アグリゲーションaggregation)の場合とがある。前者は,事業所,官公庁,学校,地域,家庭など(またはその内部の社会集団)である。一方後者は,特定の性,年齢,職業,または特定の疾病をもつ人などに限定して,社会集団から抽出された寄集めの集団である。たとえば,社会的に特別の保護を要する婦人,老人,青少年,心身障害者などがこれにあたる。
従来は,集団の中から特定の疾患(結核など)を見いだすために行われたが(これをケース・ファインディングcase findingという),現在では職業性および非職業性の健康障害にかかりやすい人々のスクリーニング(screening for high risk)や複数疾患の同時スクリーニングmultiphasic screeningが行われるようになった。
健康診断の方法には,医師の診察,臨床検査(血液,尿,X線,心電図検査など),面接法(医師,保健婦などによる),質問紙法(アンケート調査)などがある。健康診断は,多数の人々を対象とするため,その方法はできるだけ簡単,迅速かつ安価なものである必要がある。しかし,これは診断の不正確さを容認するものではない。個々の診断技術の正確さは,〈鋭敏度〉と〈特異度〉により,あらかじめ定量的に測定することができる。前者は真の陽性者(健康障害者)を見つける割合であり,後者は見かけ上の陽性者(非健康障害者)を除外する割合である。健康診断の結果,健康障害者を異常なしと見誤る(見かけ上の陰性)と,正しい診断と治療に至る時間を遅らせ,場合によっては致命的となることがある。逆に健康者を健康障害と見誤る(見かけ上の陽性)と,不必要な検査と治療を行うことになり,健康面および財政面の両面でロスが大きい。健康診断は,より進行した健康障害を防止するための有効な措置につながるものでなければならない。すなわち,精密検査,治療などこれに続く適切な事後措置が保証されなければ無意味な活動に終わる。したがって,多くの人的資源(マンパワー),費用および施設を動員して行われる健康診断そのものが目的となってはならない。
健康診断は,国,事業所,地域,学校などでの保健サービスの重要な要素となっている。雇用者のいる事業所では,労働安全衛生法により,従業員の雇入れ時,およびその後の定期的な健康診断(一般健康診断と特定の有害業務に対する特殊健康診断)が義務づけられている。同様に,公務員に対しては人事院規則により,雇人のいない自営業主や家族従事者に対しては家内労働法や保健所法により,学校(教職員,学生,生徒,児童,幼児)に対しては学校保健法により,それぞれ健康診断が義務づけられている。
執筆者:荒記 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…学校で子どもの健康を保護し,同時に現在と将来において健康を獲得していく能力を育てるために営まれる諸活動の総称。これらの活動には,健康診断,環境衛生,応急処置などといった主として子どもたちの健康の保持を目的とする健康管理活動と,保健指導や保健学習といった健康についての認識や実践力を育てることを主要なねらいとする健康教育活動があり,その全活動を通して健康に生活していく能力の発達が図られる。 学校保健という語は第2次大戦後に使われ始めた言葉であるが,この種の活動は戦前からあり,学校衛生とよばれていた。…
…
【保健衛生上の身体検査】
体格検査ともいう。発育状況や栄養,健康状態を知るための指標として,身長や体重など体位(主要体格値)を測定することをいうが,一般には疾病の有無を含めた健康診断と同義に用いられる。日本の児童・生徒の体位(身長・体重・胸囲・座高)に関する学校保健統計調査は1900年(ただし座高は1939年)から行われている。…
…壮年期,老年期にある人で,日常生活を支障なく送っている人を対象として,短期間に全身の総合的な健康診断を,主として入院によって行い,本人の健康状態を評価,把握し,その後の生活における健康面での指導を行う総合健康診断のこと。おもな目的は,自覚されていない各種の慢性疾患,とくにいわゆる成人病を早期に発見することと,老化に伴う心身の機能の低下の度合を判定し,健康保持の方針を確立することである。…
※「健康診断」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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