内科学 第10版 「老化制御」の解説
老化制御(加齢と老化)
環境さえ整えれば不老不死は可能ではないか,との夢は,細胞レベルで否定されてしまった.米国のウェイスター研究所のLeonard Hayflickらは正常体細胞の分裂には限界があり(Hayflickの限界),すべての正常体細胞には分裂集積回数があらかじめ決められていることを証明した(Hayflickら,1961).近年この機構に上記のテロメア,テロメラーゼの関与が明らかになってきている.また近年,遺伝子レベルでの介入とはいわないまでも寿命自体が伸ばせる可能性は出てきた.以下に代表的なものを掲載した.
(1)カロリー制限
酵母,線虫のような下等生物からアカゲザルのような霊長類まで,一貫して寿命を延ばす方法として,カロリー制限が知られる.一般には30%程度の摂取カロリーの削減により,寿命がラット,マウスでは1.3~1.5倍程度延長する.最近アカゲザルの結果も報告され,カロリー制限を受けたサルは対照(自由摂取)と比較し,死亡率が低下するのみならず,癌,糖尿病,心臓病などの老化と関係する疾患の罹患率が低く,さらには脳の萎縮も軽減したと報告された (Colmanら,2009).アカゲザルにおけるカロリー制限の結果,さまざまな因子が変化する(表1-5-4)(Rothら,2004).今後これらの因子が老化指標になる可能性はある.近年,このカロリー制限による寿命延長の機構も一部明らかになってきており,特にサーチュイン(sirtuin)が注目されている.カロリー制限によりサーチュイン蛋白が増加し,活性化されることが知られる.サーチュインは重要なさまざまな蛋白質を脱アセチル化し,細胞寿命を制御している可能性が示唆されている.
(2)レスベラトロール
もともとブドウの果皮などに含まれるポリフェノールで赤ワインに含まれることが知られる.近年このポリフェノールがサーチュインを活性化し,線虫や魚などの寿命を延長することが報告されている.マウスでは高脂肪食を摂取したマウスにおいてはレスベラトロールで寿命が延長することが報告されてはいるが,普通食ではその効果がない.ヒトに対する寿命への影響などは今後の課題である.
(3)運動
運動,特に定期的な持久運動はミトコンドリア合成を促進し,さまざまな疾病予防につながりヒトにおいても平均余命を延長させる可能性が示唆されているが,カロリー制限のように運動により最大寿命の延長効果があるかどうかはいまのところ明らかでない.[葛谷雅文]
■文献
Colman RJ, Anderson RM, et al: Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys. Science, 325: 201-204, 2009.
Hayflick L, Moorhead PS: The serial cultivation of human diploid cell strains. Exp Cell Res, 25: 585-621, 1961.
Roth GS, Mattison JA, et al: Aging in rhesus monkeys: relevance to human health interventions. Science, 305: 1423-1426, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報