不老不死(読み)フロウフシ

デジタル大辞泉 「不老不死」の意味・読み・例文・類語

ふろう‐ふし〔フラウ‐〕【不老不死】

いつまでも年をとらず、また、死なないこと。中国人の伝統的生命観の一つ。「不老不死の仙薬」

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精選版 日本国語大辞典 「不老不死」の意味・読み・例文・類語

ふろう‐ふしフラウ‥【不老不死】

  1. 〘 名詞 〙 いつまでも年をとらず、また死なないこと。
    1. [初出の実例]「法華経なりとぞ説いたまふ、ふらうふしの薬王は」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)
    2. [その他の文献]〔列子‐湯問〕

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改訂新版 世界大百科事典 「不老不死」の意味・わかりやすい解説

不老不死 (ふろうふし)

長生つまり肉体の永存をいう。いつまでも若く永遠に生きたいという人間の根源的な願望は,中国では神仙道教の教義に結実した。古代的不老不死の観念を,(1)若さを保ったまま永生を得る,(2)いったん死んでからよみがえる,という二つの型に分けるとすれば,処女のような肌をした藐姑射(はこや)の仙人や白日昇天(ある日突然身体が軽くなって昇仙する)などは前者であり,尸解(しかい)(みせかけの死のあと棺中に剣や杖を残して仙人の仲間入りをする)などは後者に属する。
執筆者:

紀元前の思想家で道教の祖とされている老子は,〈谷神篇〉の中で〈不死の道は玄牝(げんぴん)に在り〉といっている。すなわち,天地の原理に精神と身体を当てはめ,鼻(玄)から風・熱・温・寒・燥の五気を入れ,本性の魂を鼻から出入りさせて天と気を通じる。口(牝)は大地から生じる辛・甘・酸・鹹・苦の五味で形骸,骨肉,血脈を形成して魄を大地と通じさせる。このように天地の気を体内に往来させ,病気になる前に原因を除き,災いを未然に防ぎ,逝くものは追わないのを至人(理想の人間像)とした。嵆康(けいこう)は〈養生論(ようせいろん)〉で神仙の存在を認め,〈道を志して日夜精進し,真理を体得して性を養い命を養う方術を究めつくせば,数百年から千年以上も生きられるのは当然である〉といっている。また,葛洪(かつこう)は《抱朴子(ほうぼくし)》で,〈長生不死の道を追求する者は必ず善行を積み,慈しみの心を昆虫にも及ぼし,他者のしあわせを歓(よろこ)び,慢心せず,妬(ねた)まぬ有徳の士となれば,天から祝福されて願望を達成することができる〉と述べている。断穀法,導引術,練気術,用気法などは,不老長生のための手段として編み出されたもので,そのほか,特殊な薬を服用する方法もあった。たとえば葛洪の《神仙伝》の〈西河少女〉は枸杞(くこ)による不老法を説き,《金匱(きんき)録》(《史記》にある金の櫃(ひつ)に入っていた仙書)には甘谷水の故事を挙げ,菊の服用によって天地とともに命ながらえ,死なない処方を記す。そのほか,ハスやオケラ(朮(じゆつ)),伏苓(ぶくりよう),松葉,松の実,麻の実の服用法などもあった。興味ぶかいのは,この薬によって若返り,周や燕,呉,楚,漢などにさまざまな人物として生まれかわるという説明があることで,自在に変幻して五,六百年の寿命を保つと考えられていたのである。また,《淮南子(えなんじ)》の著者淮南王(わいなんおう)劉安や黄帝が,服石して登仙したという考え方もあった。また500年以上生きている者には影がない,とも伝える。これらは《医心方》巻二十六・巻二十七に収録された隋・唐以前の文献に記されたものである。
執筆者:

日本には,年祝(としいわい)を行い長寿を祝う風習があるが,並はずれた長寿はむしろ望まれなかったようである。浦島太郎の話では,竜宮で過ごしたわずかな時間がこの世では知る人もなくなるほど長い期間に相当し,絶望して玉手箱を開け一気に老いると語られている。また《竹取物語》では,天人のもたらした不死の薬を〈ふし〉(富士)山で燃やしてしまう。中国の道教などの影響をうけた修験道では,山中での修行や水銀(丹)の服用などを通じ,即身仏(ミイラ)になることで不老不死をめざしたようであるが,一般には神を永遠の生命と英知を象徴する老翁と童子の姿で想像することがあっても,不死を積極的に獲得しようという姿勢はあまりみられなかった。むしろ,八百比丘尼(はつぴやくびくに)のような長寿は異常なこととして忌まれた節もある。しかし,《大鏡》をはじめ古い史書には,異常な長寿の者がいて実際に見聞したことを語るという形をとるものがあり,《清悦物語》でも源義経のことを〈にんかん〉という魚肉(人魚?)を食して長寿を得た清悦が物語る形式をとっている。八百比丘尼も北国街道を北上する義経一行に出会ったと語る地方がある。昔話の〈桃太郎〉では,若返りの水を飲んで若返った爺と婆から桃太郎が生まれたと語られる。民俗社会では,この世でずっと直線的に長生きし続ける形よりも,毎年正月を迎えるごとに若水をくんで若返ったり,また還暦に赤ん坊のような赤ずきんをかぶって祝うように,人生や年の変り目ごとに生まれかわる循環的な時間の更新を通じて生きる形を好んでいたようである。なお,沖縄の宮古島には,人間は死水を浴びたために死なねばならないが,一方蛇は変若水(おちみず)を浴びたために始終脱皮し生まれかわって長生きするのだという伝承が伝えられている。
執筆者:

不老と不死とは必ずしも同質的問題ではない。老人として永遠に生きつづける形式の不死もあり,また回春あるいは極端な場合は死の試練を経ることにより不老を達成することもありうるからである。この例にフォイニクス(不死鳥)の神話や〈若返りの泉〉伝説がある。また不死に関連するものには別に長命者という範疇(はんちゆう)があり,ノアの大洪水以前に969年生きたと聖書に伝えられるメトセラMethuselah,長寿の代名詞さらにはスコッチ・ウィスキーの商標ともなっている実在のイギリス人オールド・パーOld Parr(本名Thomas Parr。1483?-1635)などがよく知られている。彼ら長命者が老人の姿で表現される点も特徴である。また不老ないし不死の獲得が人間にとりいちがいに好ましい状態であるとも断言できず,事実ヨーロッパでは悪魔に魂を売ったり神罰を受けた者は死ぬことができなくなり,永遠にこの世をさすらう。〈さまよえるユダヤ人〉の伝説や,C.R.マチューリンゴシック・ロマンス《放浪者メルモス》の主人公などがその例で,ファウスト伝説もこれに含まれよう。しかし一般には,不老と不死を同時に獲得することが幸福の永続を意味すると考えられ,古来盛んにその方法が探究された。

 古代の神話や英雄譚に語られる不死者や長命者は,多くの場合,神や竜(ドラゴン)など超自然的存在からその不死性を分与される形をとる。ギリシア神話では,アキレウスが冥府の川ステュクスの水に浸されて不死となるはずであったが,母テティスがつかんでいたその踵(かかと)だけが水にふれず,のちパリスの矢に倒されることになる。プロメテウスは,毒矢を射られたケンタウロスケイロンから不死の命を譲り受けたといい,エンデュミオンはゼウス(一説には恋人である月神セレネ)に不老不死を願って許される。またグラウコスは薬草を食べて不死となる。神々の食物アンブロシアや神酒ネクタルも不死にする力をもつことで知られる。ゲルマン神話では,ジークフリートは退治した竜の血を浴びることで不死者となる(ただし,アキレウス同様,彼にも唯一の弱点があり,ために落命する)。錬金術の分野では,エリクシルエリキサー)が不老不死の霊薬と考えられるようになった中世後期以降,これを手に入れて400年生きたと伝えられるサン・ジェルマン伯らの怪人物が現れている。民間伝承でも,精液,処女の尿など多くのものに不老ないし回春の効能が帰せられていることは,洋の東西を問わず知られている。

 一方,宗教や哲学の分野では,人間には本来〈魂〉という不死の要素が宿っていることを認め,死すべき肉体をすて純粋に霊的存在になることこそ不死性の獲得である,との主張がなされる場合がある。ピタゴラス教団では霊魂の不滅とその転生が信じられ,グノーシス派でも肉の桎梏(しつこく)を脱却して神界に帰還し,不滅の存在(神)と一体になることが目ざされた。また人間の内に潜む不死なる要素については,人性三分説が霊・魂・体の3段階を挙げ,霊を人間の本質(不死の種子)と規定する。J.ベーメからH.P.ブラバツキーに至る神智学の伝統ではこの霊的要素を光や火,またはオーロラオーラとして視覚化している。これら哲学的不死観が共通して教える点は,現に生きていることが唯一の存在形式ではなく,むしろ魂は異なる存在形式を次々に体験しながら永遠にありつづけるという原理である。インドではとくにこうした考え方が強かった。

 不老不死が楽園観念と密接に結びつくことも多い。キリスト教においては,パラダイスエデンの園)にある〈生命の樹〉の下から湧く〈生命の泉〉が不老不死の霊泉とされ,パラダイスから流れ出る四つの川の源,あるいは宇宙の中心とみなされるなどの伝説がある。遠く古代オリエントにさかのぼるこのような〈生命の泉〉の伝説は,中世以降とりわけアレクサンドロス大王の東征伝説と習合し,永遠の若さを与える〈不老の泉〉の伝説となってヨーロッパに広まり,探訪熱をあおることとなった。〈不老の泉〉をもとめてナルバエスPánfilo de Narvaes(1470ころ-1528)やデ・ソトFernando De Soto(1500ころ-42)は西インド諸島フロリダへ渡った。

 18世紀に入るとヨーロッパでは科学的に不老不死を探究する人々が出てきた。まずビュフォンは《博物誌》の中で,ファウスト伝説のような不死者が医学的に存在しえないことを指摘し,科学的長寿法をもとめることが新しい科学の課題の一つであると主張した。イギリスではE.ダーウィンが《ゾーノミア》を書き,老化現象を肉体の反応機能の鈍化とみなして,興奮や緊張など過度な肉体反応を控える生活を長寿の秘訣とした。また20世紀に入ると,É.メチニコフが食菌作用の面から老衰の解明を行い,ヨーグルトを飲用するブルガリアの長寿村と乳酸菌の因果関係を指摘した。その他,今日に至るまでローヤル・ゼリーなど長寿食品として喧伝されるものは跡を絶たず,現在ではバイオテクノロジーや遺伝学を含む生物科学の各分野が不老の問題に改めて取り組んでいる。
執筆者:

インドの諸宗教においても,不死は重要な概念で,サンスクリットではアムリタamṛta,アムリティユamṛtyu,アマラamaraの語をあてる。初期には,不死は神々の属性であると考えられていたが,五火二道説を出発点として輪廻(りんね)思想が広まるにつれ,生死を繰り返す輪廻の世界から解脱した状態を指すようになった。多くのウパニシャッドやベーダーンタ学派の伝統では,不死は宇宙原理ブラフマン,およびそれに等置される本来の自我アートマンに帰せられる。また,古い時代の仏教文献では,しばしばニルバーナ(涅槃(ねはん))と同義に用いられている。〈不死〉の原語の一つ〈アムリタ〉は,神々の特殊な飲物(漢訳されて〈甘露〉)でもあるとされる。これを飲んでいるから神々は不老不死なのだと,通俗的には解釈されている。しかし今日では,飲物としての〈アムリタ〉は,ギリシア語の〈アンブロシア〉と語源を同じくする語で,不死を意味する〈アムリタ〉とはまったく別起源の語であると考えられている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不老不死」の意味・わかりやすい解説

不老不死
ふろうふし

人間とは別な世界に住む、人間界を超越した者の特性として考えられる、若さの永続と生命の永遠をいう。これを願うことは人類に普遍的であり、神(かみ)の国(くに)、浄土(じょうど)世界、天国(てんごく)など、宗教や信仰によって相違はあるが、別な世界を表している。中国では、『史記』に秦(しん)の始皇帝(しこうてい)(前259―前210)が不死の薬を求めた話があり、戦国時代から不死の観念があったと思われる。道家(どうか)の養生(ようせい)の説には不老長寿を実現するための方法が述べられ、六朝(りくちょう)時代になると、葛洪(かっこう)によって、服薬(ふくやく)、辟穀(へきこく)、導引(どういん)など不老不死を得るための具体的方法が説かれ、不老不死は道教の重要な思想的要素となった。その方法が現代において健康法に活用されているものもある。また不老不死を主題にした文学作品も数多くある。

[今枝二郎 2018年5月21日]

『『神僊思想の研究』(『津田左右吉全集10 日本文芸の研究』所収・1964・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不老不死」の意味・わかりやすい解説

不老不死
ふろうふし
bu-lao bu-si

これは人類の普遍的願望であるが,霊魂の不滅を唱えたキリスト教に対し,中国人はこの世での生命体の不死を問題とした。そこから俗世を超越した仙人 (神仙) の像が描出され,仙人になるために各種の修行法が案出された。その方法には大別して,(1) 特殊な呼吸法や体操によって肉体を鍛える,(2) 仙薬 (丹) を服する,の2方法があった。 (2) の方法は,節制や鍛練などの修業を実行できない王侯貴族が愛用した。唐の太宗 (2代) ,高宗 (3代) ,敬宗 (13代) ,武宗 (15代) らは金や水銀,ヒ素などからつくった丹薬を用いて中毒死したという。しかし,不老不死の追求は化学や宗教を発達させ,種々の養生法や漢方薬の発想や技術の発展を促した。

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四字熟語を知る辞典 「不老不死」の解説

不老不死

いつまでも年をとらず、また死なないこと。

[使用例] ついてはかねがね御約束の通り、今日は一つ私にも、不老不死になる仙人の術を教えてもらいたいと思いますが[芥川龍之介*仙人|1922]

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