聖アレクシ伝(読み)せいアレクシでん(英語表記)La Vie de Saint Alexis

改訂新版 世界大百科事典 「聖アレクシ伝」の意味・わかりやすい解説

聖アレクシ伝 (せいアレクシでん)
La Vie de Saint Alexis

フランス中世の韻文聖人伝。作者不詳。《ローランの歌》以前に成立した初期文学作品の一つとしてフランス語史・フランス文学史上重要な価値を有する。10音綴詩句5行で1詩節を構成,125節625行の小品。脚韻ではなく半諧音を用い,形式的には武勲詩との共通点が多い。4世紀ローマ貴族の一人息子アレクシは世を逃れて神に仕えるために婚礼の夜に新妻と両親とを捨てエデッサ(現,ウルファ)に渡るが,その後再びローマに戻り,知られることなく自分の館の階段下で敬虔な生涯を送る。その死後数々の奇跡が起こり,聖人に列せられた。物語の源流は5~6世紀のシリアにあり,その後架空の要素が付加され説話風に発展,9~10世紀頃のギリシア語のテキストによって西欧に伝播された。フランス語のテキストは,10世紀末のギリシア語からのラテン語訳によって,一連の西欧諸語のテキストに先駆けて成立した。人物の感情描写はすでに生彩に富む。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「聖アレクシ伝」の意味・わかりやすい解説

聖アレクシ伝
せいアレクシでん
Vie de Saint Alexis

フランス語の最古聖者伝の一つ。 1040年頃の作。フランス文学で最初の芸術性のある作品。 10音綴5行詩 125節の形式で,作者はルーアンの教会参事会員チボー・ド・ベルノンとされているが,確かではない。4世紀ローマの苦行者アレクシウスの伝記で,長い遍歴ののちの神への志向献身の生涯と,その事情を知った家人嘆き,悲しみとを簡潔に,劇的な緊張感をもって描いている。

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