改訂新版 世界大百科事典 「マカベア書」の意味・わかりやすい解説
マカベア書 (マカベアしょ)
Books of Maccabees
旧約聖書外典および偽典中の書の総称。第1から第4まで四つの《マカベア書》があるが,第1と第2がともにマカベア戦争の経緯を記しているという点を除いて,互いに関連はない。4書とも《七十人訳聖書》に属するが,第1と第2は旧約聖書外典に,第3と第4は同偽典に属する(第3を外典に加えることもある)。
(1)《第1マカベア書》 アレクサンドロス大王の東征とディアドコイ(後継者)の支配にふれた後,アンティオコス4世の即位に移り,以後ヒュルカノス1世の大祭司即位(前134)に至る約40年のユダヤ・パレスティナの歴史を記した戦記。シリアのギリシア文化による文化的宗教的統一政策をユダス・マカバイオスを中心とするユダヤ民族が執拗な抵抗によりはねのけて,マカベア(ハスモン)家を首長とする独立国家を実現させた経緯が骨子となる。その記述はマカベア家中心的。前134-前124年にヘブライ語で記された失われた原著のギリシア語訳が伝存する。
(2)《第2マカベア書》 冒頭の二つの書簡,著(編)者の序文,キュレネのヤソンの歴史書の摘要からなる。マカベア戦争の前史というべき大祭司オニアス3世時代(前180ころ)の事件から筆を起こし,大祭司職をめぐる争い,シリアによる介入と宗教的迫害,ユダス・マカバイオスの英雄的な戦いを経て,敵将ニカノルの死(前160)をもって終わる。ユダス・マカバイオス中心的であり,神の奇跡的介入を記す等の特徴がある。《第1マカベア書》への対抗意識も認められる。前124年にギリシア語でまとめられた。
(3)《第3マカベア書》 エルサレム神殿への侵入を試みて神により撃退されたプトレマイオス4世は,エジプトのユダヤ人への復讐を決意し,ユダヤ人を1ヵ所に集めて象により殺そうとするが,再び神により逆襲されて悔い改める。ユダヤ人はこの日を祭日とする。本書は祭日の起源譚に素材を求め,ユダヤ人内部には神への信頼を勧めて背教を戒め,外部にはユダヤ人を弁護したもの。前1世紀以降後70年までの間にギリシア語で記された。
(4)《第4マカベア書》 〈敬虔な理性は情念を支配する〉という命題を,マカベア戦争中のユダヤ教迫害の時代に信仰に支えられた理性をもって情念に打ち勝ちつつ殉教の死をとげた9人のユダヤ人を範例として,ストア哲学を援用しながら証明したもの。古代東西両教会の著名な著述家たちに高く評価され,キリスト教会の説教に大きな影響を与えた。後20-54年の間にギリシア語で記された。
執筆者:土岐 健治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報