日本大百科全書(ニッポニカ) 「聖書神学」の意味・わかりやすい解説
聖書神学
せいしょしんがく
Biblical theology
キリスト教の教義ではなく、聖書の内容を歴史批評的に研究する神学。それまで組織神学あるいは教義学の補助的役割を果たすにすぎなかった聖書神学が、正統主義的教義学から脱却し、聖書の文学的・歴史批評的研究を旗印に近代的な学問として出発したのは、19世紀以降である。それまでのところ聖書の研究は、単に正統主義的教義学を擁護し、それに根拠を与える護教学の位置にとどまり、聖書そのものの歴史的・批判的研究への試みは、教義学の壁の前に阻止され続けてきた。聖書の歴史的研究は、ドイツの新約学者たち、たとえばバウルやリッチュルなどによってその先鞭(せんべん)がつけられたが、20世紀に入るに及んで研究は飛躍的に進展する。とりわけドイツの宗教史学派のブルトマンを中心とする研究は目覚ましく、この時期に聖書の「歴史的・批評的研究方法」が、聖書神学の学問的性格として定着する。
一方、こうした研究の進展につれ、キリスト教の正典としての聖書の使信を、いかに教義学と整合的に解釈するかという問題が提起され、聖書神学を根底から揺り動かす問題として自覚されるに至る。聖書の歴史的・批評的解釈に対して、教義学の立場からバルトが提出した疑問には、こうした根本問題への洞察がある。
[山形孝夫 2018年1月19日]