動物心理学用語。〈見通し〉ともいわれる。ヒトないし動物がある困難な情況に直面したとき,突然,解決手段を見いだして,その情景の目的にかなった行動をとるような場合の心的過程を説明する概念で,ゲシュタルト心理学に由来する。すなわち,個々の情況の要素から,全体の連関を把握することをいう。洞察行動の最も有名な例は,W.ケーラーのチンパンジーの実験である。天井につるしたバナナを得ようと,なん回か跳びついてみたが,得ることのできなかったチンパンジーが,部屋に置かれた箱に気づき,これを重ねてバナナをとったり,さらに手近にある棒を用いて餌をとることにも成功したというものである。
複雑な学習には〈洞察〉過程が不可欠であるが,学習そのものと洞察は異なる。洞察は過去の試行錯誤の〈記憶〉を前提としており,それをもとにした一種の飛躍的な了解過程である。したがって,洞察は一般に高度な知能活動が行われていると思われる動物,ことに高等哺乳類に限って認められるものである。たとえば,金網の向こう側に餌を置いた場合,ニワトリは金網の前でうろうろするだけで餌に到達できないのに対し,イヌはしばらく直進を試みた後,洞察を通じて金網を迂回して餌を得ることを学習する。
執筆者:奥井 一満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主として問題解決problem solvingの場面で解決の鍵(かぎ)となる行動を、人および動物が見通すことを意味する。その結果、外見的には突然新しい行動の方向が生じ、解決がなされるようにみえる。ドイツの心理学者ケーラーのチンパンジーの回(まわ)り路(みち)実験では、たとえば柵に遮断されて、手を伸ばしても直接バナナをとれない場合、動物が、檻(おり)の中に置かれた棒に気づいてこれをとり、柵の間からバナナをかき寄せることに成功した。バナナをとった経験と棒を握った経験とを適切に結び付けることが解決の鍵で、洞察は経験の再構成reconstruction、構造転換restructureなどがポイントになる。洞察を含む学習を洞察学習insight learningといっている。一方、アメリカの心理学者ソーンダイクの問題箱の実験では、ネコが試みと仕損じを繰り返して、外見上、偶然に箱の外に出てくる経過が報告されている。これを試行錯誤学習trial and error learningという。この区別は記述的なもので、問題場面の構造、難易度によって、学習行動にいずれかが際だって認められる。
[小川 隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…第2は,思考を場の再構造化の過程としてとらえるゲシュタルト心理学の立場である。ここでは思考が,〈洞察(見通し)〉または観点変更という知覚の法則で支配される過程とみなされる。その結果,ものごとを一挙に洞察する直観が,論理以上に重視されることとなる。…
※「洞察」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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