ローマ教皇が地上におけるキリストの代理者であることを認めるキリスト信徒の共同体。〈普遍的〉〈全体的〉を意味するギリシア語katholikosに由来する〈カトリック〉という言葉は,〈一〉〈聖〉〈使徒伝来〉などとともに,真のキリスト教会の特徴を示す言葉として古くから用いられてきた。しかし,今日〈カトリック教会〉といえば,プロテスタントの諸教派,東方正教会などから区別された,使徒ペテロの後継者であるローマ司教(ローマ教皇)を最高の指導者と仰ぐ,全世界に約6億の信徒を擁するローマ・カトリック教会のことである。
ローマ・カトリック教会の第1の特徴は,使徒たちの後継者である司教,および彼を助ける司祭,助祭からなる教階制度あるいは聖職位階制度の確立である。この制度は神的制定にかかるものとされ,司教たちは神の代理者として教え,信徒を精神面で統治し,キリストからゆだねられた権限をもって祭儀を執行し,神の賜物を配分する。教階制度は教会が権威主義的な支配の体制であるかのような印象を与え,過去において実際にそのような弊害も生じたが,その本質と精神においては信徒と教会全体の福祉に奉仕するための制度である。第2の特徴は,教会の宗教的・精神的生活を活性化し,豊かにするのに大きな役割を果たしてきた修道会の制度である。修道会は,それぞれの目標,創立者の精神などにもとづいて,きわめて多様な制度的形態をとり,また時代の要求に応じて変化していく面もあるが,その理想はつねに,福音書に示されたキリストにならい従う生活に徹することである。修道会は教会内部の精神的な特権階級ではなく,むしろ教会全体の福祉に献身する者の集団である。
ローマ・カトリック教会が他のキリスト教会から区別される第3の特徴は,聖母マリアを中心とする聖人たちに対する崇敬である。カトリック教会には聖人たちの公式リストがあり,今日でも厳格な列聖の手続を通じて新しい聖人がこのリストに加えられつつあり,またこの業務をつかさどる聖省が教皇庁のなかに設けられている。聖人崇敬は,とくに聖人のいわば〈身分証明書〉である奇跡の重視とともに,唯一なる神の礼拝と抵触するもの,あるいはキリスト中心主義と相いれないもの,とみなされることが多く,またそのような危険を含むことは否定できない。しかし,その本来の意味は,神の霊の働き,および賜物を,一般信徒の手の届くところまで身近なものにする,ということにほかならない。ローマ・カトリック教会における信者たちの生活の中心は七つの秘跡(サクラメント)であり,秘跡中心主義がカトリック教会の第4の特徴である。プロテスタント諸教会においても洗礼,聖餐などの聖礼典(サクラメント)が定められているが,洗礼,堅信,聖体,ゆるし,病者の塗油,叙階,婚姻の七秘跡を,キリスト自身によって定められた,恩寵に参与するための手段として認めているのはカトリック教会と東方正教会である。とくにカトリック教会は秘跡を魔術の一種とみなしがちなプロテスタント的立場に対して,秘跡の効力は神自身から来るもので,それを執行する者や受ける者の主観的態度や信仰によるものではないことを主張し,そこからカトリック教会独特の秘跡中心的な信仰態度が生まれている。
→カトリシズム →キリスト教
執筆者:稲垣 良典
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…カトリック信仰にもとづく世界観もしくは思想体系。〈カトリシズム〉という言葉は,プロテスタンティズム,およびギリシア正教にたいして,カトリック的キリスト教あるいはローマ・カトリック教会の教えそのものを意味する場合もあるが,ここでは今日のより一般的な慣用に従って,カトリック教会の教え,つまり信仰内容と内面的に結びついてはいるが,それから区別された文化的,思想的営みの意味に解する。この意味でのカトリシズムは,世俗的な自由主義・個人主義,反宗教的なマルクス主義と対決する〈イデオロギー〉と解されることもある。…
※「ローマカトリック教会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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