日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝機能検査法」の意味・わかりやすい解説
肝機能検査法
かんきのうけんさほう
肝障害の有無や程度、その予後の判定のために主として生化学的方法で行われる検査をいう。肝臓は代謝、胆汁産生、解毒という複数の機能をあわせもつ臓器であり、その機能のそれぞれに対応する何種類かの検査法があるので、肝機能検査法全体としては検査項目の数が100種類以上にも上る。臨床診断に際しては、しかるべき検査項目を選択し、その組合せによって総合的に判断することになる。選択基準としては、経験的および統計的なデータから、患者の症状にもっとも関連が深いと認められるもので、しかも、もっとも少ない検査項目で目的を果たすように心がける。また臨床経過を追跡することによって診断はより正確となり、病態や病期の把握ばかりでなく、治療方針の決定、予後や治療の判定も行われる。つまり、肝機能検査は肝生検とともに肝疾患の臨床診断上、重要な検査法の一つである。
肝臓は、その80%以上も冒されないと機能障害が現れてこないといわれるほど代償能力が一般に大きく、肝臓が全体にわたって冒される肝炎や肝硬変などはこの肝機能検査でチェックされやすいが、病変が限局している肝癌や肝膿瘍(のうよう)などではこの検査でチェックされない場合も少なくない。またこの検査項目には非特異的なものもあり、肝疾患以外でも陽性になることがあるので、肝疾患の診断は一般臨床検査や理学的所見、画像検査(CT、MRI、超音波検査)、肝生検など諸検査の結果とともに総合的に検討される。その意味では、肝機能検査も補助診断法の一つにすぎない。
肝臓の機能は、代謝、胆汁分泌、異物排泄(はいせつ)、解毒の各作用に大別されるが、その同一機能に属する諸検査の結果がすべて一致するとは限らない。各種検査項目の意義を十分に理解したうえで判定する必要がある。
一般に検査試料としては血清または血漿(けっしょう)、尿ときには糞便(ふんべん)、胆汁などが使われる。ここでは血清トランスアミナーゼを例にして肝疾患との関連を述べる。
トランスアミナーゼ(アミノ基転移酵素)は、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼAspartate Aminotransferase)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼAlanine Aminotransferase)の2種が検査項目にあげられている。なお、従来、日本では、ASTはGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼGlutamic Oxaloacetic Transaminase)と、ALTはGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼGlutamic Pyruvic Transaminase)とよばれていたが、現在ではそれぞれAST、ALTと称するのが一般的である。ASTは肝臓や心臓に多いが、そのほか腎臓(じんぞう)や筋肉などにも多いので、これらの臓器に障害が加わると、細胞の中から出て血中にその活性が増す。一方、ALTはほとんど肝臓だけに存在するので、肝臓病の診断には特異性が高いが、ASTも、肝臓病のように著しく高い値を示す病気がほかにないので、診断に役だつ。この両者は、変性や壊死(えし)による肝細胞障害に対しては血清ビリルビンよりも敏感で、急性ウイルス肝炎ではビリルビンより早く上昇を始め、しかもAST<ALTとなり、黄疸(おうだん)が出てから6週後には正常域に戻る。この両者の上昇は、B型肝炎よりA型肝炎の発症時において急速で、1週間以内に極値に達し、1~2週間の経過で正常値に復する。また、劇症肝炎発病初期の著しい上昇と、経過中の急速な低下(AST>ALT)も特徴的である。一方、胆汁うっ滞のときの両者の上昇は一般に軽度か中等度にすぎないが、二次的に肝細胞障害をおこすと有意な上昇を示す。慢性肝炎の場合も軽度か中等度の上昇(AST<ALT)にとどまり、著明な変動は活動性の高い慢性肝炎の特徴である。肝硬変では低下するが、代償性肝硬変の場合にはAST/ALT>1となり、慢性肝炎とは区別できる。アルコール性の肝障害の場合は軽度の上昇にとどまるが、アルコール性肝炎の場合は一般にASTが中等度、ALTは正常か軽度の上昇を示すのでAST/ALT≧2.0となる。これはアルコール性肝硬変になっても同様であり、これだけではアルコール性肝炎と鑑別できない。さらに限局性肝障害である肝癌や肝膿瘍などの場合は軽度ないし中等度の上昇がみられ、両者間にはAST>ALTの関係がある。
[太田康幸・恩地森一]