精選版 日本国語大辞典 「肝機能検査」の意味・読み・例文・類語
かんきのう‐けんさ【肝機能検査】
- 〘 名詞 〙 肝臓病を発見したり、肝障害の進行状態をたしかめるために行なう科学的検査。肝臓機能検査。
一般的なことばとしては肝臓の機能を調べる検査という意味になるが,臨床医学では〈肝障害の有無を調べる目的で,日常診療や健康診断のふるい分けに用いられている血清および尿の生化学的検査群〉を意味し,肝臓疾患の診断に利用されている物理学的検査や特殊検査は含まれない。また肝機能に関係する検査であっても,通常は他の疾患の診断に利用されている検査は肝機能検査には含まれない。肝機能検査としては200種近い検査があるが,現在利用されている検査は表のとおりである。これらの検査は,それぞれ肝機能あるいは肝障害の異なる側面を調べるもので,どの検査もそれだけでは肝機能あるいは肝障害の状態の全体像を知ることはできないし,またこれらすべての検査を行っても,肝機能異常あるいは肝障害を見逃してしまう場合もある。
肝臓の疾患では,これらの検査が一様に異常となるとは限らず,病気の性質や程度に応じて異常となる検査の種類や異常の程度が異なる。個々の検査と肝機能あるいは肝障害との関係は明らかにされており,この関係が肝臓疾患の診断に利用されている。
毒物をはじめとして,体に不要の物質のうち水に難溶の物質は,肝臓で変化をうけて無毒化されたり,他の物質と抱合して水溶性となった後,胆汁中または尿中に排出される。この代謝路あるいは排出路の途中に障害が生じると,これらの物質が血中にたまってくる。黄疸はこのような状態の代表的なものである。ビリルビンの大部分は,寿命のつきた赤血球のヘモグロビンからつくられ,肝臓に送られてグルクロン酸と抱合され(これを抱合型または直接型ビリルビンといい,抱合前のビリルビンを非抱合型あるいは間接型ビリルビンという),水溶性となって胆汁とともに排出される。そこで肝臓に障害がなくとも,溶血などによって肝臓の能力を上回ってビリルビンの産生量が増したり(この場合には間接型ビリルビンの濃度が上昇する),肝細胞が障害されたり,胆汁の流れが阻害されて,この過程に異常が起こると黄疸となる。後者の場合には,主として直接型ビリルビン濃度が大きくなり,尿ビリルビンも陽性となる。胆汁中に分泌される胆汁酸およびコレステロールの血清中の濃度も上昇する。また胆汁流の障害に伴って,肝臓が障害されてアルカリホスファターゼ,γ-グルタミルトランスペプチダーゼγ-glutamyl transpeptidase(γ-GTP),ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)など胆道系に存在している酵素と,肝細胞中のグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼglutamic oxaloacetic transaminase(GOT)やグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼglutamic pyruvic transaminase(GPT)などの酵素が血中に出てくるため,血清活性値が上昇する。しかも,これらの血清酵素活性値の変化には,障害の部位や性質に応じて特徴がみられるため,黄疸の鑑別診断に役立つ。胆汁の流れが障害されている場合には,BSPやICGなど血中に注射された色素の排出(BSP排出試験,ICG排出試験)も障害される。
血清成分の大部分は肝臓で合成される。肝臓疾患では,血清中の総タンパク質濃度,アルブミン濃度,コリンエステラーゼ活性,血液凝固因子や総コレステロールの濃度などは合成能が障害されるために低下し,障害が著しい場合には浮腫や腹水も出現し,出血しやすくもなる。
肝臓は血糖(血液中のブドウ糖濃度)を一定に維持するのに不可欠の臓器である。したがって肝障害が著しくなると,血糖調節能にも異常が起こる。しかし血糖調節能の検査は,通常糖尿病の診断に用いられており,肝機能と関係の深い検査であるけれども通常の意味では肝機能検査の中には数えられない。
障害をうけた肝細胞からは細胞内物質が血中に出てくる。これを逸脱現象という。逸脱物質が肝細胞に特異的な物質であったり,本来血中には微量にしか存在しない物質の場合は,その物質の血中濃度を測定すれば肝障害の診断に役立つはずである。このような物質として,これまで多数の物質が調べられてきた。これらの中で,現在肝機能検査として普通に測定されている物質が,グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT),乳酸脱水素酵素などの血清酵素である。しかしながら,これらの酵素活性値の上昇の程度と肝障害の程度とは必ずしも一致しないことが知られている。またアルコールによる肝障害の検出には,これらの酵素よりもγ-グルタミルトランスペプチダーゼのほうが鋭敏である。また肝細胞は鉄,脂溶性ビタミンなどの貯蔵庫としての役割をもっている。そこで肝細胞が障害されると,細胞内に蓄えられていたこれらの物質が血中に大量に出てくる場合もあり,肝機能検査として測定されることもある。
肝炎ウイルスは,アルコール,毒(薬)物と並んで肝臓疾患の三大原因といわれる。肝炎ウイルスには現在3種類以上のウイルスが推定されている。このうち二つのウイルスの性状が明らかにされた。HAウイルスは食物を介して感染し,肝炎流行の原因となる。この肝炎(A型肝炎)は慢性化することはなく,黄疸が出るころには通常ウイルスは糞中にみつからないけれども,血清中のHA抗体価が上昇してくるので診断できる。HBウイルスは血液を介して感染する(B型肝炎)。乳児期や免疫抑制剤の使用時,また病気などのため免疫不全の状態にあるときに感染した場合には,免疫反応が十分でないためにウイルスはすぐには体から排除されず,感染が持続する。この場合は通常はっきりした急性肝炎症状も出現せずウイルスは肝細胞内で増殖し,血清中にウイルス構成成分の一部が出現してくる。HBs抗原(オーストラリア抗原ともいった),HBe抗原はいずれもウイルス構成成分であり,これらの抗原が血中にみつかる場合は,肝細胞内にウイルスが感染していることを意味する。通常,ウイルスの感染は免疫反応によって抑制されているので,感染が起こると,ウイルスに対する抗体(この場合は,HBs抗体,HBc抗体,HBe抗体)が血中に出てくる。このことは他の感染症の場合と同様である。肝炎ウイルスには,A型およびB型肝炎ウイルス以外に2種類以上あると考えられているが,まだその性状が明らかにされていない。そこで,これらの診断は,もっぱらウイルスがA型,B型ではないということを確認することによって行われる。日本の輸血後肝炎の9割以上はこのウイルスによるもので,C型肝炎と呼ばれる。GPT値の高い血液を輸血したときに罹患率が高いことが知られている。この肝炎は慢性化しやすい。以上のほかに,特殊な肝臓疾患と関連した物質としてウィルソン病の診断をするため血清セルロプラスミン,ヘモクロマトージスに対しては血清鉄濃度および血清不飽和鉄結合能,原発性胆汁性肝硬変の診断に抗ミトコンドリア抗体,肝臓癌の診断には血清α-フェトタンパクの測定が行われている。
→肝炎
慢性肝炎や肝硬変では血清中の免疫グロブリン濃度が増大することが知られている。免疫グロブリン値の上昇は慢性肝臓疾患に特有のものではなく,他の慢性疾患でもみられる体の免疫反応の一つである。肝臓疾患では免疫グロブリン値の上昇とともに,アルブミン濃度が低下する。これらの血清成分の変動を調べる目的で,血清中の総タンパク質,アルブミン,血清タンパク質電気泳動分画,チモール混濁試験,硫酸亜鉛混濁試験などの検査が行われる。肝機能不全状態では,血漿中のアミノ酸濃度,アンモニア濃度も変動するので,その測定も行われる。
肝臓疾患の診断には,以上の検査のほか,種々の特殊検査,とくに肝臓の構造や形態の変化を調べる検査や肝臓以外の臓器の異常を調べる検査も併用されている。
執筆者:大久保 昭行
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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