胆嚢癌

内科学 第10版 「胆嚢癌」の解説

胆嚢癌(胆嚢腫瘍(良性・悪性))

(1)胆囊癌(gallbladder carcinoma)
定義・概念
 胆囊あるいは胆囊管に発生する癌のことをいう.胆囊結石や膵・胆管合流異常との関連性が高いとされる.早期発見に超音波検診が有効であるが,いまだ進行して発見されることが多い.胆囊壁の固有筋層が薄いため漿膜下層に浸潤しやすく進行すると容易にリンパ節転移をきたす.
分類
 胆囊は底部頂点から胆囊管移行部までの長軸を3等分する範囲で底部,体部,頸部に区分される.形態により進行癌では乳頭膨張型・乳頭浸潤型,結節膨張型・結節浸潤型,平坦膨張型・平坦浸潤型に,早期癌では隆起型(Ⅰ)Ⅰp型(有茎性)・Ⅰs型(無茎性),表面型(Ⅱ)Ⅱa型(表面隆起型),Ⅱb型(表面平坦型),Ⅱc型(表面陥凹型),陥凹型(Ⅲ)に分けられる.
原因・病因
 胆石合併率が50~70%と高いことから危険因子とされているが,胆石を形成する胆汁組成が影響しているのではないかと考えられている.膵・胆管合流異常で高率に発生するが,胆囊内に逆流した膵液発癌に関与していると考えられる.ほかの危険因子に肥満,胆石の家族歴,胆囊炎の既往,脂っこいもの好き,化学物質などがあげられているが,発癌過程は明らかになっていない.
疫学
 胆囊癌は60~70歳代の高齢者に多く,男女比は1:2~4と女性に多い.わが国における胆道癌(胆囊癌+胆管癌)による死亡者数は悪性腫瘍による死亡原因中第6番目である.年々増加しており,厚生労働省の統計によれば1975年に4484人であった死亡者数が1985年には9470人と約2倍に,2008年では17311人と約4倍になっている.
病理
 腺癌(乳頭腺癌・管状腺癌など)がほとんどであるが,ときに,腺扁平上皮癌,内分泌細胞癌が報告されている.進展様式として漿膜浸潤,肝直接浸潤,肝転移,胆管側(肝十二指腸間膜)浸潤,門脈浸潤,動脈浸潤,腹膜播種,リンパ節転移がある.胆囊壁は粘膜層(m),固有筋層(mp),漿膜下層(ss),漿膜(s)からなり,早期癌の定義は「組織学的壁深達度が粘膜(m)内または固有筋層(mp)内にとどまるもので,リンパ節転移の有無は問わない.」とされている.早期癌の占める割合は約15%と少なく,ステージⅠ16.2%,ステージⅡ24.1%,ステージⅢ14.5%,ステージⅣa 20%,ステージⅣb 25.4%と進行癌が圧倒的に多い.
臨床症状
 特異な症候がなく,胆石あるいは急性胆囊炎の症状が発見のきっかけになることが多い.進行癌では胆管浸潤による閉塞性黄疸や体重減少が出現する.
検査成績
 特有な血液検査所見はなく急性胆囊炎があれば炎症所見を,胆管浸潤をきたすと血清ビリルビン値や肝胆道系酵素の上昇など閉塞パターンを示す.腫瘍マーカーにCEA・CA19-9があるが,いずれも進行癌で上昇する.
診断
1)腹部超音波検査(ultrasonography:US)
拾い上げ診断に最も有用な検査法である.2 cm以上で広基性の隆起性病変は胆囊癌の可能性が高く,不均一な肥厚を呈する壁肥厚性病変は胆囊癌の可能性が高い.カラードプラで速い血流信号を認める(図9-25-1A)場合,胆囊癌の可能性が高いが炎症との鑑別が問題となる.
2)超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:EUS)
体外式USと比べて解像力にすぐれ,壁深達度診断や膵・胆管合流異常の診断が可能である.胆囊壁の層構造は内腔から高・低・高の3層あるいは低・高の2層に描出されるが,最外層の高エコーは漿膜下層に一致することからss浸潤の診断が可能である(図9-25-1B).ただし,癌の微小浸潤の診断は困難であり病理組織診断との一致率は70~80%程度である.
3)造影CT検査:
ダイナミックCTによる血行動態では,癌は早期に濃染し後期まで遷延する(図9-25-2)が,良性病変は早期に濃染しても後期にはwash outされるのが一般的である.装置の進歩が目覚ましく,肝直接浸潤,肝転移,リンパ節転移,肝十二指腸間膜浸潤の判定に有用である.
4)MRI検査:
造影MRIはCTと同様に血行動態による質的診断が行える.MRCPでは胆管浸潤の診断や膵・胆管合流異常の診断が容易に行える.
5)胆道造影検査(ERCP)
進行癌では胆囊管閉塞にて造影されないことが多い.胆管浸潤の診断に有用であるがMRCPで代用できるようになっており,診断目的でERCPを行うことは少ない.ただし,胆囊管から胆囊内にカヌレを挿入して行う胆汁細胞診はERCPでしか行えない.
鑑別診断
 鑑別すべき疾患として,隆起を主体とするものでは良性ポリープや胆囊腺筋腫症(限局型)が,壁肥厚を主体とするものでは胆囊腺筋腫症(びまん型,分節型),慢性胆囊炎,黄色肉芽腫性胆囊炎などがあげられる.
治療
 根治的治療は外科的切除術しかない.ただし,腹膜播種,肝転移,広範囲リンパ節転移,血行性遠隔転移は適応外であり,抗癌化学療法を行うしかないが,著効を示すことが少なく,放射線療法にも限界がある.手術術式はm,mp癌では(全層)胆囊摘出術で十分とされている.ss以深の癌では,癌の占拠部位,進展度により肝床切除,肝中央下区域切除,拡大肝右葉切除などさまざまな術式が選択される.郭清のため肝外胆管切除あるいは膵頭十二指腸切除が行われることもある.
予後
 術後の5年生存率は早期胆囊癌では90%以上と良好であるが,ステージⅠ 87.5%,ステージⅡ 68.7%,ステージⅢ 41.8%,ステージⅣa 23.3%,ステージⅣb 6.3%と進行すればするほど予後不良となる.非切除例の予後はさらに不良であり平均生存期間は6カ月程度である.[乾 和郎
■文献
Miyakawa S, Ishihara S, et al: Biliary tract cancer treatment: 5,584 results from the biliary tract cancer statistics registry form 1998 to 2004 in Japan. J Hepatobiliary Pancreat Surg, 16: 1-7, 2009.
中澤三郎,乾 和郎編:早期胆囊癌,医学図書出版,東京,1990.
日本胆道外科研究会編:外科・病理 胆道癌取扱い規約,第5版,金原出版,東京,2003.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「胆嚢癌」の解説

たんのうがん【胆嚢がん Carcinoma of the Gallbladder】

◎胆石や胆嚢炎の治療で見つかる
[どんな病気か]
 胆嚢および胆嚢管粘膜(たんのうかんねんまく)の細胞から発生したがん腫(しゅ)です。高齢(60~70歳代)の女性に多く、男女比はおよそ1対2~3です。胆石症の人によくみられます。日本では、10万人に2人の頻度です。
 胆嚢の壁は薄いので、がん腫はすぐにリンパ管や小血管に浸潤(しんじゅん)(入り込む)します。また、周囲の臓器に直接浸潤したり、リンパ節や肝臓に転移したり、腹膜播種(ふくまくはしゅ)(種をばらまいたような転移)をおこしたりと、多様に進展します。そのため、胆嚢がんの約45%が切除不能となります。
[症状]
 胆石による右季肋部(きろくぶ)(右わき腹)の疝痛(せんつう)(刺すような、焼けるような激しい痛み)発作(ほっさ)で発症します。胆石症や胆嚢炎で胆嚢を摘出(てきしゅつ)してみて早期がんが発見される例が多く、術前に診断がつくことはあまりありません。
 ポリープ型の隆起性病変の場合、胆嚢の入り口が病変でふさがれないと症状はでません。
 進行性の胆嚢がんの症状は、上腹部痛、黄疸(おうだん)、腹部腫瘤(ふくぶしゅりゅう)の順に多くみられます。がんが肝臓に浸潤・転移したり、十二指腸(じゅうにしちょう)や横行結腸(おうこうけっちょう)に直接浸潤していても、下血(げけつ)や通過障害がない場合は特別な症状はありません。そのため、外科治療するのに手遅れとなることが多くなってしまうのです。
 胆嚢の頸部(けいぶ)に発生したがんが肝門部や総胆管(そうたんかん)(図「胆嚢、胆管の部位の名称」)へ浸潤すると黄疸を生じます。さらに進行すると、ほかの消化器がんと同様の症状が現われます。
[原因]
 胆石は胆嚢がんの誘発因子であるといわれ、胆石の人の2%以下に胆嚢がんが、胆嚢がんの患者さんの60~90%に胆石があるという報告もあります。しかし、胆嚢がんの人の胆石保有率は男性より女性が高く、胆嚢の発がん機序(きじょ)(がんが発生するきっかけ)は男女で異なるともいわれています。
[検査と診断]
 超音波検査がもっとも侵襲(しんしゅう)(身体的負担)がなく、手軽で有用な検査です。発見されたポリープの直径が1cm以上ある場合は、悪性かあるいは悪性化する可能性が高く、1.5~2cmになると悪性化の可能性がより高くなり、すぐに外科治療を受けなければなりません。
 胆嚢に腫瘍性病変が疑われたとき、CT断層撮影、内視鏡下胆嚢胆管造影(ないしきょうかたんのうたんかんぞうえい)検査が行なわれます(外来でも受けられます)。また、体外から肝臓を経由して針または管(カテーテル)を挿入し、胆嚢を直接穿刺(せんし)造影する方法も有用で、これは入院のうえで行なわれます。
 胆嚢がんの肝への直接浸潤、肝転移がないかどうかを診断するために、肝臓のCT断層撮影が行なわれます。肝門部、膵頭(すいとう)部、大動脈周囲にあるリンパ節が腫れて大きくなっているかどうかが、手術治療の決定、手術後の予後の推測に重要な情報を提供します。
 内視鏡の先端にプローブ(探触子(たんしょくし))をつけた超音波内視鏡検査も有用です。手術前には血管造影も行なわれます。
◎進行がんなら拡大手術を実施
[治療]
 胆嚢は粘膜、固有筋層、漿膜(しょうまく)の3層で構成されていますが、がん細胞がどの層まで到達しているかで手術法や予後が異なります。
 表面の粘膜内にとどまるがんならば胆嚢の摘出だけで十分ですが、固有筋層に達している場合は胆嚢肝床(たんのうかんしょう)という部位が切除され、周辺のリンパ節も郭清(かくせい)(あとを残さずきれいに取り去る)されます。漿膜に達している場合はリンパ節転移の可能性が高いため、年齢、肝機能などにもよりますが、肝臓や肝臓周辺の定められた区域を切除する拡大手術が必要です。
 また、膵頭部のリンパ節への転移や胆管を経由した膵臓への浸潤があれば、膵頭十二指腸切除も行なわれます。
●日常生活の注意
 超音波検査で胆嚢および肝内胆管が観察できますから、50歳以上の人は年に1~2回、検診を受けることをお勧めします。とくに、胆石や胆嚢ポリープがあるといわれた高齢の女性は、定期的に検査を受けるべきです。
 尿の色には平素から注意しましょう。閉塞性黄疸が生じた人の尿は濃く、汚くなります。また、眼球(がんきゅう)の白目(しろめ)の部分が黄色くなり、血液中の総ビリルビン値が1dℓ中3mg以上あれば、黄疸(おうだん)と診断されます。
 顔色が黒ずむほど強い黄疸が長期間続くと、肝機能障害、胃潰瘍(いかいよう)、腎機能障害になりますから、すぐに専門医のいる病院を訪ねる必要があります。
 ただし、同じ消化器でも、胃・大腸の専門医では、胆嚢がん、肝門部胆管がんの治療はできないのがふつうですから、注意しましょう。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胆嚢癌」の意味・わかりやすい解説

胆嚢癌
たんのうがん
carcinoma of the gall bladder

胆嚢に原発する癌。女性に比較的多く,胆石症 (コレステロール胆石) を合併する場合が少くない。胆嚢癌死亡率の 50~60%は胆石を併有している。

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百科事典マイペディア 「胆嚢癌」の意味・わかりやすい解説

胆嚢癌【たんのうがん】

胆道癌

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世界大百科事典(旧版)内の胆嚢癌の言及

【胆道癌】より

…肝臓外胆道系の癌の総称であり,胆囊癌と肝外胆管癌のことを指す。また,臨床的および病理学的に両者の判別が不可能の場合に,便宜上,胆道癌ということもある。…

【胆囊】より

… 胆囊の働きや病気を調べる方法としては,かつては造影剤を使用してのX線検査が主として行われてきたが,最近は被検者に負担の少ない超音波による検査法が広く用いられるようになり,大きな成果をあげている。 胆囊の病気として最も多いものは胆石であり,そのほか胆囊癌,胆囊炎などが問題となるが,癌や炎症の多くは胆石に合併しておこることが多いので,胆囊の病気の中心は胆石症といえる。胆囊にみられる胆石の種類はコレステロール胆石,胆汁色素胆石,脂肪酸カルシウム石,炭酸カルシウム石などであるが,最も頻度の高いものはコレステロール胆石である。…

※「胆嚢癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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