毛髪には寿命があって、生理的には1日70~80本の抜け毛があるが、異常に多く抜けて毛がまばらになったり、部分的に多数の毛が脱落して「はげ」た場合を脱毛症といい、禿髪(とくはつ)症、禿頭病あるいは俗に「はげ」ともよばれる。
[齋藤公子]
生まれたときには軟毛が普通に生えていて生後2~3か月の間に抜けたまま生えてこない場合が多い。毛嚢(もうのう)(毛包)の発生異常で、障害が毛髪のみのものと、汗腺(かんせん)がないために汗をかかなかったり、爪(つめ)や歯の欠損を伴う場合もある。治療法はなく早期に義髪(かつら)を装用する。
[齋藤公子]
おもに頭部に突然円形の境界明瞭(めいりょう)な脱毛部を生ずる病気である。自覚症状がないため、多くは美容院や理髪店で発見される。通常直径2~3センチメートルの脱毛部が1か所にみられるが、ときには多発して不規則な形に融合したり、頭髪が全部脱落してしまうこともある。台湾坊主ともよばれる。はげた部分の皮膚は普通ほとんど異常を認めないが、周囲より多少へこんでいたり、ぶよぶよした感じがしたり、赤みを帯びたりすることもある。病巣部を顕微鏡で調べると毛嚢の周囲に炎症がみられる。通常、頭髪が侵されるが、まゆげ、まつげ、ひげなどが抜けたり全身の毛が全部脱落する場合もあり、爪にも点状のへこみを生じたり表面がざらざらになったりする。拡大しつつある病巣周囲の毛髪は、軽く引っ張ると痛みを伴わずに容易に抜け、毛根をみると先のほうが細くなっている。経過はいろいろで、2~3か月で常態に復することが多いが、年余にわたり発毛しなかったり、再発を繰り返す場合があり、悪性脱毛症ともよばれる。毛が再生してくる場合、細く柔らかい毛が生えてしだいに正常化するが、ときには一過性にしらがを生ずる場合もある。原因については、アレルギー説、病巣感染説、毛成長周期障害説、精神身体医学的原因説、内分泌障害説、自己免疫説、あるいはこれらの諸原因が絡み合って生ずるとする多原因説など諸説があるが、決定的なものはない。治療法は、これらの原因説に従い、あるいは経験的にグリチルリチン、パントテン酸、精神安定薬などの全身療法と、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤、局所血流改善剤の外用、太陽灯照射、局所凍結療法などが行われる。
[齋藤公子]
俗にいう若はげのことで、若年性脱毛症、男性型脱毛症ともいう。20~30歳ころから額の生え際が後退したり頭頂部が薄くなるなど、特徴的なはげ方をする。遺伝的な素因と男性ホルモンのアンドロゲンが関与する。女性では内分泌障害がない限り、高齢にならないとこの形の脱毛はおこらない。よい治療法はない。
[齋藤公子]
男性型脱毛症に属し、はげ方はまったく同じ形をとるが、発症年齢が40~50歳以後である。よい治療法はない。
[齋藤公子]
いわゆる〈はげ(禿)〉のことで,正常に存在すべき有毛部,ことに髪のある頭部や顔面に,毛髪が欠如し,あるいはその太さや数が減少して,まばらとなった状態をいう。禿髪(とくはつ)症,禿頭病ともいわれる。原因はいろいろで,いまだ解明されないものもある。したがって現在のところ統一された分類法はない。おもな脱毛症は次のとおりである。
(1)円形脱毛症 毛髪疾患の約70%を占める。円形ないし楕円形の脱毛巣が,ほとんど自覚症状なしに髪のある頭部に出現,しばしば進行,拡大して数を増す。また融合して不規則形の病巣を形成する。病巣が拡大した場合,頭部全体に及ぶこともあり(悪性脱毛症),さらに重症例では全身の毛が脱落する。原因は不明。病巣感染説,神経障害説,遺伝,自己免疫疾患等の説があるが確実なものはない。軽症例の多くは自然に治癒するが,再発もある。内服療法として,グリチルリチン,セファランチン,精神安定剤,抗ヒスタミン剤等が用いられる。外用療法として,アセチルコリンやコルチコステロイド含有ローションの塗布,およびその密封療法が行われている。多発例や病巣の大きいものにはコルチコステロイドの局所注射が有効である。特殊療法として,DNCB反応,PUVA療法,神経ブロック,雪状炭酸圧抵法等が用いられている。
(2)壮年性脱毛症 いわゆる〈若はげ〉のことで,男性型脱毛症,アンドロゲン性脱毛症等とも呼ばれている。前頭部の生え際から頭頂部に向かって毛髪がしだいに疎となるものをいう。男性ホルモンの作用により毛周期が短縮し,終毛が軟毛に転換するためとされている。遺伝性がある。有効な治療法はなく,進行した場合かつらの着用を考慮すべきである。
(3)休止期脱毛状態 精神的ストレス,高熱,難産,手術的ショック等の後に起こる瀰漫(びまん)性の脱毛症で,毛囊成長期から急速に休止期に移ることにより起こる。分娩後脱毛症はこれに入る。
(4)内分泌異常・代謝障害・栄養障害による脱毛症 脳下垂体,甲状腺の機能異常や,タンパク質欠乏,タンパク質吸収障害,およびその漏出,あるいは亜鉛欠乏症等のほか,代謝障害や肝臓病などに伴って現れる。
(5)薬剤性脱毛症 タリウム,抗癌剤,抗凝固剤,抗甲状腺剤,抗コレステロール剤,ビタミンA等の薬剤投与により生ずる脱毛症。
(6)機械的脱毛症 外からの牽引,摩擦,圧迫,打撲等物理的要因による脱毛症をいう。乳幼児の後頭部にみられる新生児後頭脱毛はその一つで,まくらとの摩擦による休止期毛の脱落により生ずる。そのほか結髪のための牽引による牽引性脱毛症や,日本髪などのかつらの毛止めによる圧迫性脱毛症,手術時の頭部固定による術後脱毛症,あるいは抜毛癖によるトリコチロマニア(毛髪抜去症)等は一種の機械的脱毛症である。
(7)他皮膚疾患に伴う脱毛症 膠原(こうげん)病,毛囊性ムチン沈着症,梅毒,ハンセン病,頭部白癬(はくせん),頭部粃糠(ひこう)疹(ふけ症)等により,またはそれらに随伴して脱毛症が起こる。
(8)瘢痕(はんこん)性脱毛症 毛母部の瘢痕性破壊による脱毛症で,脱毛性毛囊炎,萎縮性脱毛症などがこれに入る。
(9)先天性脱毛症 先天的に毛の欠如した無毛症や,毛の少ない乏毛症もある。これらの症状は,ある種の症候群の部分現象として起こることもある。
→禿 →無毛症
執筆者:石橋 康正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。元来,毛には成長期,退縮期,休止期と周期(毛周期)があり,毛は最終的には自然に脱落するものである。…
…もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。元来,毛には成長期,退縮期,休止期と周期(毛周期)があり,毛は最終的には自然に脱落するものである。…
…毛髪が完全に欠如したものをいう。しかし毛の先天的欠落の意味あいが強く,同じような毛髪の欠如を意味する脱毛症とは,後者が発毛後の後天的脱落を含む場合が多いという点でやや異なっている。おもな無毛症には次のものがある。…
※「脱毛症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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