精選版 日本国語大辞典 「肩」の意味・読み・例文・類語
かた【肩】
かた‐・す【肩】
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肩甲骨と上腕骨との連結部,すなわち肩関節shoulder jointとその付近が解剖学で肩という部分であるが,俗には〈くび〉の横から肩関節のあたりまで,前方は鎖骨,後方は肩甲骨の上半あたりまで,広い範囲にわたって肩と考えることが多い。人体では,この部がほぼ直角に外方に向かって突き出しているが,肩関節そのものがまるいうえに,その表面を〈三角筋〉がおおっているから,ふくよかなまるみを帯びている。肩関節は肩甲骨と上腕骨との間にある典型的な球関節である。その運動は多軸性で,人体で最も可動性の大きい関節である。関節窩(か)が浅いため,運動性は大きいが,よく脱臼する。肩関節の前上方には肩峰acromionという肩甲骨の突起があり,肩関節の上に触れたり見たりできる。人体計測の際に上肢長の基点とされる。この肩峰は,肩甲骨の背面を下内側から上外側へ伸びる著しい稜線〈肩甲棘(きよく)〉の上外側端にあたる。肩峰の内側面は鎖骨との関節になっている。
執筆者:藤田 恒夫
解剖学的には腕の付け根が肩であるが,日常言う肩はより広い。〈肩が凝る〉〈肩をたたく〉〈肩に担ぐ〉などの肩は頸(くび)の一部である後頸部にあたるが,〈肩〉という漢字は肩甲骨を含む〈かた〉の象形〈戸〉に〈月(にくづき)〉を加えたものだから,字形からは項(うなじ)より腕の付け根までを肩とするほうが自然である。shoulder(英語),Schulter(ドイツ語),épaule(フランス語)なども同様で,いずれも原義は平たんな部分,つまり肩甲骨を指し,次いで肩を言う語となった。その肩甲骨の上部につく筋肉が肩の線をつくっているから,shoulder,Schulter,épauleなどは日常語の肩とほぼ一致している。
大プリニウスは頸がなくて左右の肩に眼がある部族のことを報告しているが(《博物誌》7巻),もちろん誤りである。ゲルマン神話中のオーディンの肩にはフギン(思考)とムニン(記憶)という2羽のカラスがとまっていて,見聞きしたすべてのことを彼の耳にささやいていた。ギリシア神話では神々の寵児タンタロスが増長の末,神々を試そうとして息子ペロプスPelopsを殺して肉料理をつくり,神々にささげた。悟った神々はだれも食べなかったが,娘の行方を捜す女神ケレスだけは他に気をとられていたためペロプスの左肩の部分を食べてしまった。後に神々が肉片を集めてつなぎ生命を吹きこんだとき,左肩の部分が不足したため,代りに象牙をはめこんだ。姉ニオベが思い上がりのゆえに女神レトの怒りに触れて夫と子たちを失って自らも石に化した話を聞いたとき,人々はニオベを怒ったがペロプスだけはニオベのために泣いて上衣を脱ぎ,左肩の象牙をあらわにはだけた。ここで左肩をはだけるのは悲しみの姿態である。一方,中国では左肩を脱ぐことを袒(たん)または左袒といい,吉事にも凶事にも行ったが,前漢の将軍周勃が呂氏一族の乱を鎮めようとしたとき,軍中に令して呂氏のためにする者は右袒し,劉氏のためにする者は左袒せよと言ったところ,全軍皆左袒した(《十八史略》)ことから,それは味方することを意味するようになった。また,謝罪のため右肩をあらわにすることを肉袒という。
古代エジプトの王(ファラオ)が昇天するときはラーとオシリスの2神の肩の上に乗ると考えられていた(ペピ1世および2世の〈ピラミッド・テキスト〉)。バッジE.A.W.Budgeはアフリカでは族長とその妻たちが従者の肩に乗って旅するのを常とすることを考えれば,ラーやオシリスの肩に乗ることも不思議ではないと言う(《オシリス》2巻)。12世紀の聖職者シャルトルのベルナールは,自分たちは小人だが巨人(すなわち古代の文化的遺産)の肩に乗っているために巨人よりも遠くまで見通せると語り,時代を経てニュートンも同じことを述べた。
アイブル・アイベスフェルトI.Eibl-Eibesfeldtは,深い毛で覆われていた人類の祖先は,毛流の方向の結果,肩の毛が逆立っており,肩幅を広く見せていたと言う(《比較行動学》)。現在も体毛の濃い人には肩に毛の束があるし,体毛が無くなった後も,男性は肩を誇張しようと服装に気を配る。ワイカ・インディアンの肩飾,日本の武士の裃(かみしも),軍人の肩章などその例であるが,肩幅の広いのが男性的だとする考えがその基礎にある(同上書)。
執筆者:池澤 康郎
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一般的に腕(上肢)と胴(躯幹(くかん))を結合している部分の上面を、漠然と「かた」というが、解剖学的には肩峰部(肩関節の周辺部)を中心として、三角筋部、肩甲上部、肩甲間部などを含めた範囲をいい、内部には肩関節、およびこれを包んでいる肩の筋や靭帯(じんたい)などがある。肩関節は外側に突出した肩甲骨の浅い関節窩(か)と上腕骨頭との間に成立し、典型的な球関節に属する。肩関節は全身の関節のなかでもっとも可動範囲が広いため、脱臼(だっきゅう)しやすく、全身の関節の脱臼の半分は肩関節である。
外見上の肩の形をつくるのは、肩関節周囲を包む多数の筋と靭帯である。筋には、肩の丸みをつくる強大な三角筋と、肩甲骨の背面に付着している棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋、あるいは小円筋、大円筋があり、これらの筋の協力によって上腕の挙上、外側回旋、あるいは後方へ引くといった運動が可能となる。また、肩の運動は、肩関節のほかに肩鎖関節、胸鎖関節、胸壁上を動く肩甲骨の運動の協同作用によってもたらされる。
肩関節は、ほとんどあらゆる方向に運動できるが、これは肩関節が浅い球関節構造であるということのほかに、この部位の関節包(関節を包む膜)がまばらで緩く、関節間隙(かんげき)に余裕があることにもよる。たとえば肩甲骨と上腕骨とは2.5センチメートルも離れることができる。四十肩とか五十肩といって40歳代、50歳代に肩の痛みと運動障害を訴えるのは、多くの場合、肩関節周囲の靭帯や筋の炎症によっている。
[嶋井和世]
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… 腕の範囲のあいまいさは西欧語にもある。arm(英語),Arm(ドイツ語)は腕だが,shoulder(英語),Schulter(ドイツ語)も動物の前肢を表すことがある。チェコ語ramenoは腕と肩の両意がある。…
…ハイドは大動物(ウシ,ウマなど)の皮で,アメリカ,カナダ規格では皮重量25ポンド(約11kg)以上のもの,スキンはそれ以下のもので,幼動物または小動物(子ウシ,ヒツジ,ブタなど)の皮をさす。ハイドはその使用目的によって原料皮,または革になったとき,サイドside(背線での半裁),ショルダーshoulder(肩部),バットbutt(背部),ベリーbelly(腹部)などに裁断されることがある(図)。 動物からはいだままの生皮は腐敗しやすいので,ただちに乾燥(乾皮),塩づけ(塩蔵皮),塩づけののち乾燥(塩乾皮),防腐剤で処理後,乾燥(薬乾皮)などの方法で保存される(仕立て,キュアリング)。…
…もっともヒトでは,このような滑膜性関節もある種の病変によって全体が骨化して一体となり,可動性をまったく失うことがある。なお,化石で知られるところによると,古生代の原始魚類であった板皮(ばんぴ)類のなかには,カニの脚のように関節でつながる胸びれをもつ種類(胴甲類)やコメツキムシのように頭部と肩部の骨格がちょうつがい状の関節で連結する種類(節頸類)があったが,それらの関節の構造や機能は十分明らかになっていない。【田隅 本生】
【ヒトの関節】
[関節の基本構造]
ヒトの全身には多くの関節があり,個々の関節にはそれぞれの動きに応じて形態の相違がみられるが,しかしすべての関節に共通した基本的構造がある。…
※「肩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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