脳梗塞の典型例

六訂版 家庭医学大全科 「脳梗塞の典型例」の解説

脳梗塞の典型例
(脳・神経・筋の病気)

 Aさんは少し太りぎみの赤ら顔をした男性です(65歳、会社役員)。会社の健診で以前から血圧が高く、コレステロール値も高いといわれていましたが、自分だけは大丈夫と治療にはあまり熱心ではありませんでした。

 3年前の健診で心房細動(しんぼうさいどう)を指摘されてからは多少お酒はひかえめにしましたが、たばこは1日30本くらい吸っていました。血圧の薬ものんではいましたが、心原性脳塞栓症の予防のために抗凝固薬をのむようにという医師アドバイスには「毎日薬を服用し、1カ月に一度は必ず病院を受診しなければならないのはいやだ」といって、定期的には通院していませんでした。

 病気が起こる前日、少しお酒を飲んだそうですが、翌朝眼が覚めると右側の手足がまったく動かず、また口をきこうにもしゃべれないことに本人も家族も気づき、すぐかかりつけの医師に連絡しました。その医師の指示救急車を呼び、近くの総合病院に入院しました。

 病院ですぐCTをとりましたが、CTにはまだ病変は出ておらず(脳梗塞の病変はCTをすぐとっても発症24時間以内では出ないことがある。しかし脳出血は必ず病変が出るので、それだけで出血梗塞かの区別ができる)、MRIと血管撮影で左の中大脳動脈という太い血管が詰まっていることが確認されました。その検査が終わった時はもう昼過ぎで、発症してから6時間以上たっていました。

 病院では抗脳浮腫薬(こうのうふしゅやく)や神経保護薬を使って治療を行いましたが、翌日、麻痺だけはかなりよくなり右手足は動かせるようになったものの、思ったことが言えない症状(失語症(しつごしょう))はまったく改善しない状態が続いています。医者からは、症状が現れてから2~3時間で来てくれれば、ほかの治療法(t­PA)などもできたのにと残念がられました。

 これは心房細動によってできた血栓塞栓となって左中大脳動脈をふさいだ心原性脳塞栓症の例です。はじめは左大脳の運動神経と言語中枢が侵され片麻痺(かたまひ)失語が出たのですが、運よく塞栓が部分的に少しこわれて、詰まった場所がずれたので麻痺はよくなったものの、失語症は改善しなかったのです。

 失語症はリハビリテーションなどでよくなることもありますが、Aさんの場合は6カ月経過しても症状はあまりよくはなりませんでした。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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