日本大百科全書(ニッポニカ) 「腋臭症」の意味・わかりやすい解説
腋臭症
えきしゅうしょう
俗にわきがともいい、わきの下(腋窩(えきか))の汗が異常な臭気を発するものをいう。アポクリン腺(せん)から分泌される汗が皮膚表面の細菌によって化学変化を受けて臭気を発し、思春期に顕著になる。遺伝性で、体質的に軟耳脂(軟らかい耳垢(みみあか))を伴うことが多く、通常は多汗症を合併する。精神的な原因、温熱、飲酒などで発汗が顕著になったり、腋窩の局所的清潔を欠く場合などには臭気が強くなる。なかには自分だけ気にしているといった神経症的要素もある。
[水谷ひろみ]
保存的療法
まず腋窩の清拭(せいしき)と剃毛(ていもう)がある。わきの下の毛は、腋窩分泌物、垢、細菌などの集合場所で悪臭のもとになる。できるだけ短く剃毛し、清潔に保つようにする。かみそり、脱毛クリームなどを用いるか、1本ずつ抜去する。また、殺菌剤を含むせっけんを常用する。さらに局所塗布剤を使用する。制汗剤としては塩化アルミニウム入りの液剤がよく使われる。これは発汗を抑制するとともに殺菌作用も兼ねている。これに抗生物質含有軟膏(なんこう)を併用すれば、さらに有効である。
[水谷ひろみ]
根治療法
次のような方法がある。
(1)腋窩皮膚切除法は、現在もっとも広く行われているが、傷跡が目だちやすいこと、術後約1か月間は局所の安静固定が必要なことなど、簡単な手術とはいえない。また、傷跡を気にして小さめに切除を行うことが多い。
(2)電気外科療法は、電流で毛根を1本ずつ破壊し、アポクリン腺の出口はふさぐがエクリン腺は残るので、多汗は治らない。
(3)皮下組織削除法は、稲葉益巳(ますみ)の考案したもので稲葉式ともよばれ、この目的のための特別な皮下組織削除器の鋭利な刃で、エクリン腺やアポクリン腺も含めた皮下組織を削除する方法である。術後の圧迫固定法にもくふうがされており、すくい縫い式(tie over法)とよばれる。
このほか、吸引法や超音波法、それらを組み合わせた方法もある。手術によって臭気をかなり抑えることはできるが、完全に除去することは難しい。
[水谷ひろみ]