汗は体温調節を行っています。体温が上がると汗が出て、汗の気化熱で体温を下げます。必要以上に汗が出て皮膚の表面が汗で濡れてしまう状態を多汗症といいます(図105)。
汗には、温度が高い時に出る温熱性発汗、精神的に緊張した時に出る精神性発汗、辛いものを食べた時に出る味覚性発汗などがあります。
また、原因になる病気があって多汗が生じる続発性多汗症と、とくに病気がなく健康な人に発生する原発性多汗症とがあります。さらに、多汗部位が全身に広がっている全身性多汗症と、体の一部で発汗が増えている限局性多汗症とがあります。
限局性多汗症は、多くは
足の裏に多汗があるとにおいの原因になったり、
全身性多汗症では感染症、内分泌・代謝性疾患、
発汗量が多い場合は、眼で見たり手で触れるだけで多汗の有無を判断できます。客観的に判断したり、治療効果を判定する時には、汗を吸い取ると青紫色に変色するヨード紙や、発汗記録計を使って発汗量を測定します。
全身性多汗症では、原因になっている疾患をさがします。甲状腺機能亢進症が疑われる時は甲状腺機能検査を行います。
多汗症の治療法には外用薬治療、水道水イオントフォレーシス、ボツリヌス毒素皮内注射治療・交感神経遮断治療などがあります。それぞれの治療に長所と短所があり、決定的な治療法はありません。
外用薬としては塩化アルミニウム液、塩化ベンザルコニウム液などが使われます。外用薬は1日1回、就寝前に使います。
水道水イオントフォレーシスは手のひら、足の裏、腋の下の多汗症の治療に適した方法です。多汗部位を水道水に浸し、直流電流を流します。治療を中止すると発汗は元の状態にもどります。水道水イオントフォレーシスに用いる乾電池を電源にした装置が販売されています。
ボツリヌス毒素を皮内に注射すると注射した場所には汗が出なくなります。ボツリヌス毒素の効果は3~4カ月続きます。
手のひらの多汗の症状が強い場合には、胸腔鏡を使った胸部交感神経節遮断術があります。この方法では確実に手のひらの汗は止まりますが、欠点として多くの人に
手のひらの多汗症は思春期に現れやすく、成長とともに軽くなります。いろいろな治療法があり、それぞれに長所と短所があるので最も適した方法を選ぶことが大切です。
嵯峨 賢次
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
正常人より汗の分泌量が多い状態で,〈汗かき〉のこと。2種類がある。第1は全身性多汗症で,気温の上昇や運動,重労働などをした場合に普通の人以上に全身に汗をかくものである。体質によるほか,肥満,熱のでる病気やバセドー病,関節リウマチ,糖尿病,パーキンソン症候群,交感神経障害などの病気のときに起こる。また妊娠や閉経期などにもみられる。第2は局所性多汗症で,精神的刺激により,手のひらや足の裏,額,鼻の先,わきの下などの身体の一部にだけ普通以上に汗をかく場合である。また進行麻痺,半身不随,脊髄空洞症などの神経系の病気のときには,片側だけに多汗症が発生することもある。多汗症の治療としては,原因の病気がある場合にはその治療が必要であるが,体質性のものは根治が難しい。精神安定剤や汗をおさえる制汗剤として自律神経薬が使用されるが,医師の指示に従って使う必要がある。精神的安静も大切である。
→汗
執筆者:藤澤 龍一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
異常に多量の汗をかく状態で、いわゆる汗かきのことをいう。汗腺(かんせん)そのものの機能亢進(こうしん)状態、汗腺に対し薬理学的作用をもつ薬剤、発汗神経の異常など種々の原因でおこる。全身性多汗症と局所性多汗症がある。全身性多汗症は体質によるほか、有熱性疾患、バセドウ病、リウマチ性関節炎、糖尿病、妊娠や更年期などでみられる。体温調節中枢の興奮、異常(脳しんとう、パーキンソン病、交感神経系障害など)や薬剤(抗コリンエステラーゼ剤や解熱薬など)でもおこる。局所性多汗症は、顔面、わきの下、手のひらや足の裏(掌蹠(しょうせき))、外陰部に精神的な緊張で普通以上に汗をかくものをいう。俗に「あぶら手」とか「あぶら足」とよばれているのは掌蹠多汗症のことである。進行麻痺(まひ)、半身不随、神経炎などでは侵された部位によって顔または全身の左右どちらか一側に多汗がみられ、これを片側性多汗症という。体質的な多汗症には根治療法はない。日常生活で気にしないよう精神の安定を図る。精神安定薬、自律神経遮断薬を用いることもある。局所には塩化アルミニウム液、滑石末などが用いられる。
[齋藤公子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…局所適用によってエクリン腺からの発汗を抑える目的で使われるものには,塩化アルミニウム,硫酸アルミニウム,フェノールスルホン酸アルミニウム,塩基性塩化アルミニウム,ホルムアルデヒド,グルタールアルデヒドなどの水溶液やローションがある。アトロピンの内服によっても制汗作用が発現するので,多汗症の治療に用いられる。汗腺を支配して発汗をひき起こす神経は,解剖学的には交感神経系に属するが,薬理学的にはコリン作動性神経で,アセチルコリンを伝達物質として放出し,汗腺のムスカリン様受容体に興奮を伝達している。…
※「多汗症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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