江戸時代,評定所や町奉行所,勘定奉行所などに出廷する庶民の控所である〈腰掛(腰懸)〉において営まれた茶屋。訴訟当事者や差添(さしぞえ)の町村役人,公事宿(くじやど)などは奉行所に出頭した旨を届けると,門前に設けられた腰掛(南町奉行所のものは94坪(約310m2)の広さがあった)で白洲(しらす)(法廷)への呼込みを待ったが,その間,必要な書面をしたため,内済(ないさい)(和解)の交渉をすることもあり,ここで食事をとることも許されていた。腰掛茶屋はこれらの者に湯茶,弁当,敷物,草履,筆紙などを売ることを業とした株営業であって,その冥加(みようが)として奉行所の土間や腰掛付近の清掃,草取りをするほか,出火駆付の義務を負い,また白洲への呼込みを取り次いだり,差紙(さしがみ)(召喚状)を公事宿に届ける使いをするなど,奉行所の雑用にも従事した。腰掛で酒肴を用いることや公事見舞は禁止されていたが十分には徹底せず,また茶代や敷物代を強請する茶屋もあったが,町奉行所の腰掛茶代等については1791年(寛政3)以後官費で支弁されることになった。
執筆者:神保 文夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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