呼吸運動は胸郭の拡張と横隔膜の収縮によって営まれるが、横隔膜の収縮が主となるような呼吸の型を腹式呼吸とよぶ。腹式呼吸では、横隔膜の収縮という活動が腹部内臓を押し下げ、腹壁を前方に押し出すという様式をとるのに対し、胸式呼吸では、肋間(ろっかん)筋の活動が著明となり、胸部がよく動くという様式となる。横隔膜の呼吸による移動の大きさは、安静呼吸時で約1.5センチメートル、深呼吸時では6~7センチメートルに達する。深呼吸時では、さらに脊柱(せきちゅう)の伸展がおこって胸郭が上方に持ち上げられるため、真の横隔膜の低下は10センチメートルにも達することとなる。また、横隔膜の総表面積は約30平方センチメートルであるから、安静呼吸時で450ミリリットル、最大吸気で約3000ミリリットルもの換気が横隔膜の運動によって成し遂げられることになる。
呼吸の仕方において、男子は腹式、女子は胸式呼吸をするとよくいわれるが、前述のように呼吸のうえで横隔膜の占める役割は非常に大きいため、普通は男女ともに横隔膜による呼吸の割合のほうが優越している。ただし、姿勢や服装、妊娠などによって、その割合は影響されるし、個人差も大きい。
[本田良行]
横隔膜が収縮して下降することにより吸息を行う型の呼吸。胸囲の前後左右径の拡大によって吸息の行われる型の胸式呼吸chest respirationと対比されて呼ばれるが,実際には正常者ではこの二つの型の呼吸は混在しており,かつ腹式呼吸のほうが優勢である。横隔膜が収縮すると,肝臓,胃などの上腹部が下方に押し下げられ,腹囲は拡大するが,横隔膜が弛緩すると,胸腔内に生じた陰圧,腹腔の陽圧によって横隔膜は上方に押し上げられ,いわば受動的に呼息がなされる。ただし,咳反射,努力性呼出などでは腹直筋などの腹壁筋が積極的に収縮して腹圧を高めて激しい呼出を行う。腹式呼吸は胸式呼吸に比べて力学的効率がよいが,気管支喘息(ぜんそく),肺気腫などで横隔膜の平低化が起こったり,呼吸困難の強いときには能率の悪い胸式呼吸をおもに用いるようになる。このような場合には横隔膜の機能を回復させるため積極的に腹式呼吸訓練が行われる。
→呼吸
執筆者:白石 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また横隔膜が弛緩すると,ドームは再び上方に向けて高まり,胸腔が縮小して息をはき出す(呼気)。われわれが日常行っている呼吸運動には,このような横隔膜の上下運動による横隔膜呼吸(腹式呼吸ともいう)と,肋骨の上下運動による肋骨呼吸(胸式呼吸)とがある。日常はこの二つの呼吸様式を合併して行っている。…
…呼吸数は新生児では1分間に29回(未熟児では34回),健康な成人では安静時1分間に平均11.7(10.1~13.1)回,軽労働時に平均17.1(15.7~18.2)回,重労働時に平均21.2(18.6~23.3)回で,24回をこえることはない。呼吸筋として横隔膜がおもに働く場合を腹式呼吸,肋間筋が主体となる場合を胸式呼吸というが,自然の呼吸運動では両方が共存している。おおよそ,肺活量の2/3が横隔膜の運動に,1/3が胸郭の運動によっている。…
※「腹式呼吸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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