家庭医学館 「膀胱尿管逆流症」の解説
ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう【膀胱尿管逆流症 Vesicoureteral Reflux】
膀胱尿管逆流とは、膀胱内の尿が尿管内に逆流する現象をいいます。
ふつうは、膀胱内の尿は、尿管と膀胱の移行部にある逆流防止機構によって、尿管内に逆流するようなことはありません。
細菌のまざった汚い膀胱内の尿が、尿管を介して腎盂(じんう)へ逆流することにより、腎盂腎炎(じんうじんえん)(「腎盂腎炎(腎盂炎)」)がひきおこされます。腎盂腎炎をおこした子どものうち、約40%に、膀胱尿管逆流がみられます。
膀胱尿管逆流は、尿管が膀胱に入り込む部分が弱くなったためにおこる原発性のものと、生まれつきの神経筋の異常や尿路閉塞(にょうろへいそく)などの基礎疾患によって膀胱機能が障害されている二次性のものに分けられます。
[症状]
くり返しおこる尿路感染症や水腎症(すいじんしょう)(「先天性水腎症」)の原因を調べることで発見されます。
また、腎臓が小さいこと(低形成腎)や、ほかの腎尿路の形態異常(多嚢胞性異形成腎など)の詳しい検査で見つかることもあります。
[検査と診断]
超音波検査や排尿時膀胱尿道造影(はいにょうじぼうこうにょうどうぞうえい)で診断します。逆流が高度でないと、超音波検査だけでは発見はむずかしいものです。
逆流の程度を正確に調べるには、排尿時膀胱尿道造影が必要です。
膀胱尿管逆流の重症度は、国際分類によって、つぎのように5段階に分けられています。
Ⅰ度 逆流が尿管だけにみられるもの。
Ⅱ度 逆流が尿管、腎盂、腎杯(じんぱい)まであるが、広がっていないもの。
Ⅲ度 尿管、腎盂、腎杯が少し広がっていて、中等度の逆流があるもの。
Ⅳ度 尿管に中等度の拡張と蛇行(だこう)がみられ、腎盂腎杯も中等度に拡張しているもの。
Ⅴ度 尿管が高度拡張、蛇行していて、腎盂腎杯の拡張も著しく、乳頭(にゅうとう)といわれる構造が破壊されている状態にあるもの。
以上のうち、Ⅳ度およびⅤ度の逆流が高度逆流と考えられています。
[治療]
膀胱尿管逆流は、年齢が若いほど、そしてその程度が軽いほど、自然に消失することが知られています。
そのため、少量の抗生物質を夜1回使用することによって、尿路感染症を予防しながら、経過を観察します。
ただし、発見時にすでに逆流の程度がひどく、あるいは抗生物質の少量予防投与にもかかわらず、尿路感染をくり返す場合には、逆流防止術といった手術を行ないます。
膀胱尿管逆流症は、放置しておいても自然に消失するものもある反面、進行性に腎実質の瘢痕(はんこん)、萎縮(いしゅく)(このような病態を逆流性腎症(ぎゃくりゅうせいじんしょう)といいます)をおこし、末期腎不全などの重篤(じゅうとく)な状態になることもあります。
そのため、早期に診断すること、適切な管理と治療を行なうことがきわめて重要なのです。