口腔癌の一種で,舌にできる癌。最近歯肉癌より多い傾向にあり,50~60歳代のいわゆる癌年齢に多発するが,20~30歳代にもみられる。臼歯部に相当する舌の辺縁から下面にかけて多く,舌尖や舌背には少ない。最初,痛みのないはれや潰瘍に気づく場合が多いが,舌の運動障害や違和感により発見されることもある。やがて,痛みが強くなり,発音・咀嚼(そしやく)・嚥下障害が増してくる。
肉眼的に膨隆(腫瘤)型,潰瘍型,肉芽型,白板型,乳頭型,糜爛(びらん)型がみられ,潰瘍型,膨隆型,肉芽型が多い。病変の周囲に硬結(しこり)があるのが特徴である。膨隆型もやがて中央部に潰瘍を形成して噴火口状となり,灰白色の汚い壊死組織で覆われ,悪臭がある。早期にかつ高率に顎下ならびに上深頸リンパ節に転移するので,その転移の有無は舌癌の治療や予後に重要な関係がある。虫歯,補綴物などの慢性刺激により起こる褥瘡(じよくそう)性潰瘍との鑑別がたいせつで,刺激を除去してもなお1週間を経ても治癒しない場合には癌を疑い,生検により確定診断を行う。
治療は,従来から外科的切除と放射線療法が行われており,舌の原発巣に対してラジウム針,金198 198Auグレイン,イリジウムなどの組織内照射を行い,頸部リンパ節の転移腫瘍に対しては根本的頸部郭清術が行われる。そのほか,ブレオマイシン,5-フルオロウラシル(5-FU)などの抗癌剤の局所動脈内注射,筋肉内・静脈内注射などの全身投与の併用療法が行われる。5年累積生存率は,stage Ⅰ 92.9%,stage Ⅱ 74.9%,stage Ⅲ 58.6%,stage Ⅳ 42.9%,全体では74.9%である(東京医科歯科大,1978-85年の舌癌136例,1988)。
→口腔癌
執筆者:塩田 重利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
舌に発生する癌腫(がんしゅ)をいい、口腔(こうくう)癌のなかでは、もっとも頻度が高い。年齢別では50~60歳代に多く、性差では男性が女性の2倍多い。好発部位は側縁部で、初期には自覚的には口内炎と似た症状のことが多いが、進行すると深い潰瘍(かいよう)や、硬い膨隆を形成する。早期にリンパ節転移をきたすことが多い。治療は外科的切除、放射線療法、抗癌剤による化学療法の単独または併用療法が行われる。
[池内 忍]
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