口腔癌(読み)コウクウガン

デジタル大辞泉 「口腔癌」の意味・読み・例文・類語

こうくう‐がん【口××癌】

口腔内に発生する悪性腫瘍しゅよう。部位により、歯肉癌・舌癌・口底癌きょう粘膜癌・口唇癌などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「口腔癌」の意味・わかりやすい解説

口腔癌 (こうこうがん)

医学的には〈こうくうがん〉という。顎口腔領域の悪性腫瘍上顎癌舌癌,歯肉癌,口底癌などが含まれる。顎口腔領域の悪性腫瘍には,ほかに肉腫もあるが,癌と肉腫の比は10対1で癌腫が大多数を占めている。口腔癌は全身癌の約0.7%を占め,肉腫を含めて口腔悪性腫瘍(咽頭を含む)の全癌死亡者に対する相対頻度は,人口10万に対して男4.9人,女1.8人(1995年調査,国民衛生の動向,97年,44巻9号)である。40~60歳代のいわゆる癌年齢に好発し,この年代で全体の90%を占める。しかし,口腔粘膜癌のうち舌癌は20~30歳代にも少なからずみられる。性別では男性に多く,女性との比は1.7対1を示す。地域的には,人口10万に対して,西欧諸国3~5,ナイジェリア2.1,日本2.1,ニュージーランド1.1に対し,インドでは40で,インドおよび東南アジア諸国は高頻度を示している。好発部位については,1980-91年の12年間(頭頸部TNM分類研究資料,日本TNM分類小委員会)の統計によると,舌55.2%,口底14.1%,頰粘膜10.5%,歯肉16.5%,硬口蓋3.7%となっている。左右差はなく,前歯部より臼歯部に多く,とくに舌では臼歯相当部の舌縁に多発する。人種差では,白色人種は口唇癌が多く,インドでは頰粘膜および舌癌が多い。

歯肉および口腔粘膜や唾液腺に原発するものが大多数を占めるが,上顎洞癌など隣接領域癌の波及,顎骨内の残遺上皮,囊胞,エナメル上皮腫などの悪性化,乳頭腫,腺腫など良性腫瘍の悪性化,そのほか乳癌,子宮癌,腎癌など他部位からの転移がある。誘因としては,口腔粘膜癌では,老化に伴う唾液分泌の減少や口腔粘膜の薄化と相まって,咬頭のう(齲)食や咬耗による鋭縁,舌側に傾斜した下顎大臼歯の摩擦などの機械的刺激が大きくなることによると考えられている。また頰粘膜や舌の習慣性の誤咬癖や歯牙欠損部への嵌入,下顎歯列弓に対する相対的大舌症,長期間にわたる同一義歯の装着なども誘因となりうる。また,前癌状態として梅毒,プランマー=ビンソン症候群,口腔粘膜下繊維症が,前癌病変として口腔白板症,口腔紅板症があげられている。口腔癌はかなり早期かつ高率に所属リンパ節に転移し,通常,上顎癌は上深頸リンパ節に,下顎癌,舌癌,頰粘膜癌および口底癌は顎下・オトガイ下・深頸リンパ節に転移し,肺などに遠隔転移をする。

 組織型としては扁平上皮癌(類表皮癌)が種々の分化度を示して約80%を占め,一般に比較的分化度のよい角化性扁平上皮癌が多い。また,大・小唾液腺から粘表皮腫(癌),腺様囊胞癌,腺癌などが発生し(約15%),その他単純癌と呼ばれる未分化癌も大部分腺組織に由来すると考えられている。

癌に先行して,白斑,紅斑およびそれらの混在,糜爛(びらん),硬結,肥厚,浅い潰瘍などの口腔粘膜の変化がみられ,いわゆる早期癌の臨床像を示す。初めの症状には,無痛性あるいは有痛性の腫張または潰瘍,不快感,神経痛様疼痛,歯牙動揺,歯痛,抜歯創治癒不全などがある。臨床的には,膨隆型ないし腫瘤型,潰瘍型,糜爛型,肉牙型,乳頭型,白斑型およびそれらの混合型に分類される。膨隆型ないし腫瘤型は,表面が正常で隆起しているか,隆起の中央に糜爛または潰瘍を伴っており,硬い。境界は不明りょうで,周囲組織に硬結(しこり)がある。多くは無痛性である。潰瘍型は,表面が顆粒状からカリフラワー様を呈し,周囲に硬いしこりがあり,また白斑を伴うことがある。潰瘍は不規則な形をしており,汚ない灰白色で不潔な感じがし,出血しやすい。周辺は隆起して堤防状あるいは噴火口状を呈し,悪臭のある癌乳が付着している。肉芽型は,ぶよぶよした鮮紅色肉芽様を示す。乳頭型は,乳頭状,いぼ状あるいはひだ状に隆起し,表面は白く角化しており,硬い。糜爛または潰瘍を伴う。白斑型は,口腔白板症に類似し,隆起しない白斑の内部に腫瘤があるか,または隆起した白斑の内部に糜爛あるいは潰瘍を伴う。全身的には,一般の癌腫と同様な血清生化学的反応を示し,進行癌では細胞性免疫能の低下がみられる。また歯肉癌は,早期に歯槽骨に浸潤するので,X線撮影により顎骨の状態を精査しなければならない。診断にあたっては,外傷(褥瘡(じよくそう))性潰瘍,急性および慢性炎症,良性腫瘍,顎骨囊胞,肉腫,および系統的骨疾患などとの鑑別が必要となる。経過および臨床所見,X線所見,血清生化学的検査,細胞診を参考に,さらに試験切除による組織診が確定診断となる。

治療としては,外科的療法,放射線療法,化学療法,凍結外科療法が単独に,また併用療法として,さらに免疫療法が補助療法として用いられる。骨に浸潤したいわゆる骨浸潤癌と,舌,頰粘膜,口底など軟部組織に発生した軟部癌とは治療法の第一選択が異なる。軟部癌は放射線治療が第一義的となり,ラジウム針,金198(198Au)グレイン,イリジウム192(192Ir)ヘアピンなどの組織内照射と,コバルト60(60Co),X線,超高圧X線(4MVリニアック)などの遠隔照射が行われる。一方,骨浸潤癌は,放射線の術前照射が行われる場合があるが,一般に手術が優先される。歯肉癌のごく初期にのみ顎骨の部分切除術が行われるが,通常,上顎においては上顎骨全部切除術が,下顎においては下顎骨区域切除術あるいは下顎骨半側切除術が行われ,頸部郭清術が単独に,また原発巣の切除と同時に一括切除が行われる。なお,皮弁あるいは筋皮弁の利用で原発巣の拡大手術が開発され,近年手術による生存率の向上が期待されている。化学療法剤では,扁平上皮癌に効果のあるブレオマイシン,その誘導体のペプロマイシン,その他5-FU,FT-207が,免疫療法剤では溶連菌剤OK-432,PSKが用いられる。凍結外科療法は表在性の粘膜癌に用いられる。

 現在5年生存率をもって治療成績の比較が行われている。5年累積生存率は舌癌74.9%(舌癌の項参照),下顎癌(外科療法)73%,上顎癌(3者併用療法)83.3%であり,成績の向上は皮弁による即時再建手術の進歩があげられる(東京医科歯科大,1985)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「口腔癌」の意味・わかりやすい解説

口腔癌
こうくうがん

口腔内に原発する癌の総称である。口腔癌は、口腔領域における悪性腫瘍(しゅよう)のうち90%前後を占めるが、癌全体のなかで占める割合は2%程度と考えられている。性別では女性より男性に多い(日本では男性患者が女性患者の約2倍)。年齢別ではいわゆる癌年齢といわれる40歳代より増加し始め、50~60歳代がもっとも多いが、平均年齢の上昇に伴い、高齢者の罹患(りかん)率が高まっている。部位別では、わが国では舌癌がもっとも多く、歯肉癌がこれに次ぎ、口底癌、頬(きょう)粘膜癌は比較的少ない。そのほか硬口蓋(こうがい)癌、口唇癌などがみられる。

[池内 忍]

発生と症状

口腔癌を発生母地となる細胞の種類により分類すると、扁平(へんぺい)上皮癌、腺(せん)癌、腺様嚢胞(せんようのうほう)癌などに分けられる。発生の原因は明らかではないが、喫煙、飲酒、口腔不衛生が危険因子としてあげられ、とくに飲酒を伴う喫煙は喫煙単独に比べて発生率が3倍高くなると考えられている。また、遺伝要因、放射線、ウイルス、う歯(むしば)や義歯による刺激などが複合して誘因になるといわれている。

 症状は、初期には痛みはまったくないか、あるいは刺激性の飲食物がしみる程度であるが、進行すると自発痛を生じ、舌、口唇、頬(ほお)など可動部に発生したものでは運動障害がおこるようになる。さらに進行すると壊死(えし)臭を生じるが、発生部位、病期などによってさまざまな所見を呈する。

 初期の形態は、(1)潰瘍型、(2)肉芽型、(3)膨隆型、(4)乳頭腫型、(5)白斑(はくはん)型に分類される。潰瘍型は舌、頬粘膜などに多くみられ、初期にはびらん、あるいは浅い潰瘍を示し、しだいに周辺が隆起するとともに、潰瘍面は壊死、陥没し噴火口状となる。出血は通常みられない。肉芽型は、表面は均一で肉色のぶつぶつした柔らかい顆粒(かりゅう)状の組織で、出血はなく、硬結(硬くなった部位)を触れる。膨隆型は、一見正常にみえる粘膜が膨隆し、深部に硬結がある。またこの膨隆の中央部が壊死し、潰瘍型に似た形で進行していくものもある。乳頭腫型は、いぼ状あるいは小顆粒の集合、またはざらざらした面がみられ、その内部に潰瘍や硬結がある。白斑型は白板(はくばん)症とよばれる前癌病変と区別がつきにくいこともある。確定診断は病理組織検査によってなされるが、腫瘍の広がりやリンパ節転移の有無の確認には、CTスキャン、MRI(核磁気共鳴診断)、超音波などの画像診断が有用である。

 口腔癌の進行の特徴はリンパ節転移である。リンパ節転移は口腔癌のいずれにもみられるが、とくに舌癌に高頻度に認められ、通常は顎下(がくか)部を含む頸(けい)部リンパ節に転移することが多い。転移する率は口腔内の腫瘍の肉眼的な大きさよりも浸潤の深さに関連するといわれている。また、肺、肝、骨、脳などの遠隔臓器に転移を生じることもあるが、この場合には、予後は不良である。

[池内 忍]

治療法

治療法は、腫瘍の外科的切除、放射線療法、化学療法(抗癌剤による薬剤療法)、免疫療法などがあり、それぞれ単独または併用療法が行われる。その選択は、癌の発生部位、大きさ、病理組織診断、転移の有無などにより決定される。腫瘍が進展しており外科的切除による組織欠損が大きい場合には、大胸筋皮弁や遊離前腕皮弁などの形成外科的手技により舌をはじめとする軟組織の再建がなされる。また、顎(あご)の骨などの欠損は、自家骨移植や人工骨により再建される。一方、1980年代に入り、癌組織に栄養を送りこんでいる動脈に直接抗癌剤を注入し、同時に放射線を照射する超選択的動注併用放射線療法が開発された。この方法により手術を回避できれば、食べる、話すという機能は損なわれずにすみ、口腔癌患者のクオリティ・オブ・ライフquality of life=QOL(生活の質)は維持されるが、現在のところ外科療法を凌駕(りょうが)する成績は示されていない。なお頸部リンパ節転移に対しては、頸部の主要臓器以外のリンパ節、静脈、筋肉、脂肪組織を一塊として切除する頸部廓清(かくせい)術を施行するのが一般的である。

[池内 忍]

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内科学 第10版 「口腔癌」の解説

口腔癌(口腔粘膜・舌の疾患)

(9)口腔癌(oral cancer)
 部位別では舌癌(tongue cancer)が最も多く,口腔癌全体の50〜60%を占める.組織型では扁平上皮癌が最も多く全体の80%以上を占める.このほか,大唾液腺(耳下腺,顎下腺および舌下腺)や舌,口唇,頬粘膜および口蓋粘膜に存在する小唾液腺から発生する腺様囊胞癌や腺癌などが比較的多い.また,肉腫(骨肉腫,横紋筋肉腫,悪性リンパ腫,悪性黒色腫など)も生じる.[高戸 毅]
■文献
榎本昭二,他編:最新口腔外科学,第4版,医歯薬出版,東京,2000.玉置邦彦総編集:最新皮膚科学大系第17巻 付属器・口腔粘膜の疾患,第1版,中山書店,東京,2002.

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百科事典マイペディア 「口腔癌」の意味・わかりやすい解説

口腔癌【こうこうがん】

上下顎癌,舌癌など口腔にできる癌の総称。インドでは全癌の約半数を占めるが,日本では1〜3%,虫歯の鋭利な辺縁,過度の喫煙などによる慢性刺激が誘因としてあげられる。前癌病変として白板症がある。早期に発見されやすく,予後は良好。放射線治療及び手術による切除。
→関連項目口腔外科

口腔癌【こうくうがん】

口腔癌(こうこうがん)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口腔癌」の意味・わかりやすい解説

口腔癌
こうくうがん
carcinoma of the oral cavity

口腔領域の癌の総称。日本では,その発生は諸外国に比べて少いほうで,全癌の約2%といわれている。男性が女性の約2倍とされていたが,最近女性もふえている。部位によって口唇癌,頬粘膜癌,歯肉癌,舌癌,舌根部癌,口底癌,硬口蓋癌,軟口蓋癌,扁桃癌,上顎癌,下顎癌,耳下腺癌,顎下腺癌,舌下腺癌などに分けられる。治癒率は向上しているが,癌細胞がリンパ管を経て,顎下部および頸部リンパ節に転移したり,血流に入って肺,肝臓など全身臓器へ遠隔転移すると,予後は悪い。治療は手術,放射線照射,制癌剤などによる。

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世界大百科事典(旧版)内の口腔癌の言及

【口腔癌】より

…顎口腔領域の悪性腫瘍には,ほかに肉腫もあるが,癌と肉腫の比は10対1で癌腫が大多数を占めている。口腔癌は全身癌の約0.7%を占め,肉腫を含めて口腔悪性腫瘍(咽頭を含む)の全癌死亡者に対する相対頻度は,人口10万に対して男4.9人,女1.8人(1995年調査,国民衛生の動向,97年,44巻9号)である。40~60歳代のいわゆる癌年齢に好発し,この年代で全体の90%を占める。…

【癌】より

…肝臓癌は東南アジアやアフリカにも多いが,この場合は,肝炎ウイルスとともにアフラトキシンによる食物の汚染も重要視されている。インドなど,タバコやビンロウの実や葉をかむ習慣のある地方では口腔癌が多発している。エジプトやイラクに膀胱癌が多いのは,エジプトジュウケツキュウチュウ(住血吸虫)症がその誘因をなしている。…

【口】より

…口腔の後方,最も奥のところは口狭といい,上方は軟口蓋,下方は舌根で,側面のへこみに口蓋扁桃(単に扁桃,俗に扁桃腺ともいう)があり,咽頭へとつながる。
[口腔の病気]
 口腔粘膜の病気にはアフタ,アフタ性口内炎,口腔白板症,口腔癌などがある。アフタは口の中の粘膜に生じる米粒大の潰瘍で,白色の薄い膜で中央部がおおわれ,周囲には発赤した部分がある。…

※「口腔癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」