祭礼や神事芸能にかぶる造花のついた笠。笠は日や雨をよける実用的な目的のほかに,これをかぶることで非日常的な状態にあることを表象する宗教的な役割ももつ。民俗信仰では,蓑笠をつけた者は異界から来訪する〈まれびと〉ないし神とされている。笠で顔をおおい隠すことは,リズム楽器や身体の反復的な動作とともに,人を通常とは異なった精神状態にさせた。花笠は神霊の降りる依代(よりしろ)でもあったから,これをかぶることで神が憑依(ひようい)し,神そのものが踊り狂い,また祝福するとみなされたのである。花巻市の大念仏,京都今宮神社の〈やすらい花〉,大阪住吉大社の住吉踊はじめ,各地の盆踊や花笠踊には,花で飾られた笠や傘が多く登場する。これは,花笠が神霊の示現をことぶれる呪具であり,また人間が身を隠し神に変身する物忌の道具でもあったからである。こうして,人は笠や同一の服装をすることで,日常生活の制約から解放され,踊り狂うなかで神と同一化するのである。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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